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七章 一

「白狼さ、一回だけ僕を抱いてみない? 避妊していいから」  一度だけ思い出を刻んでくれたら、運命を諦めて白翁を選べるかもしれない。  そんな情けない願いを、白狼は抱きしめて胸の中でかき消した。 「抱こう。きっとみっともなく、リードもできないだろうが、きっと貴方を抱こう」  今すぐ、思考回路がぶっ壊れてしまうぐらい激しく抱いて、すべてを忘れたかったんだ。 ***  思っていたよりも大きな露天風呂に、期待で尻尾が揺れている。  いつも部屋の奥にある一般的なお風呂ではなく、屋敷の奥に露天風呂があったようだ。  勇壮な岩作り、四季折々の木々を眺め、頬をかすめる風が心地よく、自分が自然に溶け込むような感覚を感じる。  湯気で視界を奪われながら、入り口の籠の中に脱ぎ捨てられた白狼の浴衣を見つけ、耳がぴんと反応する。これは悪戯で隠してしまおう。 「何をしているのですか、蘇芳さん」  呆れた声と共に、温かい風が部屋の中へ入ってくる。何も纏わず、けれど湯気で上手に身体の輪郭を隠しながら白狼が髪を掻き上げた。 「今日、業者さんが洗浄してくれて綺麗になったばかりです。珊瑚くんがいたらゆっくり入れないだろうが交代で入れるかなと、確認していたのですが」 「言い訳はいいってば。僕も入るよ」  既に下着一枚になっていた蘇芳が、足元にすとんと脱ぎ捨てで抱き着くと、白狼は分かりやすいぐらい頭を抱えていた。 「走って滑らないように、落ち着いて行動を」 「もちろん」  身体にお湯をかけ、石鹸を見つけ振り返って尻尾を振る。一つひとつの行動があざといが、本人はわざとなのか無意識なのかが分かりにくい。 「尻尾で泡立てると、すぐに泡人間になっちゃうんだよね。白狼も尻尾で泡立てる?」 「いや、だが、まあ次からはそうしてみよう」  泡人間になった蘇芳の隣で、泡だらけの尻尾を掴むと、シャボン玉が数個飛んでいく。  絹のように柔らかく、濡れたら意外と細くしなやかな芯だと握って観察してしまう。 「あのさあ、なんで魅力的な僕の体より、尻尾なの?」 「すまない。なるべく婚姻前の体は見ないように努めている」 「ばかーっ 見ろー」  握っていた尻尾が暴れまわり、泡と共に視界が反転する。  泡まみれの蘇芳が腹の上に跨ると、腹にふにふにと陰嚢を押し付けてくる。つい、「うお」と反応したせいで、擦るように当てて無邪気に笑っている。  無邪気でも無意識でもなく、悪戯好きの子どものようだ。 「今動いたら、石鹸に滑って頭打ちそうだから。無理に動かさないで」

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