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七章 二
「卑怯な人だ」
にやりと笑うと、泡だらけの尻尾が白狼の下半身を撫でていく。器用に足の先から付け根まで撫で上げて、下半身の熱が溜まっていくのを愉快犯は見下ろしている。
「……やっぱり大きいね」
熱を持って顔を上げ始めていた肉茎を、尻尾で刺激すると声を漏らした。自分よりも何倍も逞しい男が、尻尾の刺激に耐える姿は、征服心を仰ぐ。
けれど尻尾で刺激するたびに、熱量やずしりと感じる重さに蘇芳も興奮を止められなかった。
「ねえ白狼。これを僕の中に入れて、内襞を擦って、精を放ってくれたらきっと気持ちがいいんだろうね」
今すぐ宛がって、自分の体重で沈みながら、白狼の肉茎の形や熱を体の奥で感じたかった。
感じて乱れて愛し合い、子種を溢れるほど注がれたい。尻尾で輪郭をなぞっているだけなのに体の奥が疼き、ツンとした甘酸っぱい期待が下半身を火照らせる。露わになった胸の尖りを泡が滑るだけで、声が漏れそうだった。
「兄さんたちを見て勉強したんだ。僕の閨房術を味わいたくない」
「けいぼう?」
「よくわかんないけど、セックス中のテクニックかな」
泡で隠れていた胸を自分でなぞり、赤く実り敏感な突起を押し付けてくる。
「やはり何かあったんだな」
一瞬の不意を突かれ腕を掴まれる。上半身を起こしながら蘇芳が滑らないように引き寄せると、白狼は辛そうな顔で見下ろしていた。
「あのイアフという男に何を言われた」
嘘を上手に隠せない自分に嫌気がする。相手を騙すには、表情、言葉、態度、行動と並べてみても、結局は最後は愚直なまでの真面目さに負けてしまう。
けれど白狼に幻滅されたくなくて口を噤む。言えるわけない。
育ての親の命と子孫を残す使命を天秤にかけているなんて。
白狼は必ず白翁を優先する。彼はそんな男だろう。だが蘇芳は、そんな男だからこそ離れがたい。
「白狼さ、一回だけ僕を抱いてみない? 避妊していいから」
一度だけ思い出を刻んでくれたら、運命を諦めて白翁を選べるかもしれない。
そんな情けない願いを、白狼は抱きしめて胸の中でかき消した。
「抱こう。きっとみっともなく、リードもできないだろうが、きっと貴方を抱こう」
「今だよ。今すぐ抱いて。こんなにお互い身体は疼いているんだからさ」
白狼の手が尻尾を撫でる。毛繕いするように耳を舐めたのち、「俺は愛し合いたいから、今は抱けない」とはっきり言いきった。
「貴方と四季を感じて、お互いをもっと知ってから。この考えは変わらない」
「意気地なしだなあ」
けれどどこかホッとしている自分もいることは隠せなかった。
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