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七章 三
「蘇芳さんが相談に値する相手だと俺を認めてくれない限りは無理じゃないかな」
「相談できないわけじゃないっ。その……幻滅されるだけだから、言えないってこと」
「蘇芳さんを簡単に幻滅するような男だと思われていることが、俺が修行不足な証拠だ」
何を言っても、懐が狭い自分のせいだというのか。
白狼が己と戦っている間はまだ、この天秤の答えは先延ばしにしてもいいのだろうか。
「白狼が修行するのは、エッチな事じゃない?」
えいっと両手で握ってみると、なんとか包み込めた。この凶器を、気持ちよく動かせるテクニックを持てばきっと最高な雄に成長するに違いない。
「それは、努力しよう。理性を失って怪我をさせたら大変だからな」
「じゃあ今日は、お姫様抱っこでお風呂まで運んでくれるだけでいいよ」
理性を失って求めてくる白狼を想像したら、下半身が疼くのを止められない。
が、天秤が邪魔をして、性欲は消えていく。答えはもう出てしまっているのかもしれない。
「髪もちゃんと洗うんだぞ」
何も知らない白狼が、マリに言うような言葉を投げるので、腕を思いっきり噛んでおいた。
***
次の日は、お菓子の詰め合わせ作業を開始した。珊瑚が段ボールの中に入って遊ぶので、ひとつを空にして渡す。すると朝ごはんを食べてから遊びにやってきたマリと、段ボールの中に入って遊んでいる。
白狼は風呂を掃除したあと、皺だらけにあったスーツといつもそこらへんに脱ぎ捨ててある蘇芳の浴衣をクリーニングに出すために袋に詰めている。
今日は朝から、パンを食べた。機械から飛び出す食パンと、サクサクに焼けたパンの美味しさに感動していたら「古い型だったが取っておいて良かった」と白狼は嬉しそうだった。
怠け者の蘇芳の面倒も、マリの世話の延長上ぐらいで苦になっていないようだ。
お昼はうどんをゆでてくれるらしい。台所に切れ目を入れた昆布が沈んだ鍋を見て、期待は止められなかった。
「食事のあと、猫田部長が紹介してくれた酒屋を訪ねる予定だが、蘇芳さんはどうする?」
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