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七章 十一
「蘇芳さん、ヒナさんまだ来ていませんよ。どこで待たれます?」
病室から出てきた蘇芳に看護師が声をかける。が、窓から外を見れば病院へ入ってくるヒナの姿が見える。
「下で合流します。ありがとう」
深々と頭を下げ、エレベーターの前で待つ。ナースセンターの隣のエレベーターだ。下にはヒナがいる。面会ももう何度も来ていた。
なので誰も何かが起こるなんて思っていなかった。
エレベーターが上がって、その中に暁が立っているまでは。
「よう。スオウさま」
「貴方は――っ」
にたりと笑う暁は、蘇芳が叫ぶ前に口を押えてエレベーターの中に引っ張り込む。看護師が振り返ったときにはエレベーターは下へ降りていくところだった。
***
Side:大和 白狼
人を振り回す才能に長けている。気丈に振舞っていても、弱さを隠せない。
そんな蘇芳がイアフとの再会で何かあったのだろう。余程身に応えたのだろうか。無理もない。必死で逃げ出した相手が簡単に自分の前に現れたんだ。蘇芳が紅妖狐の姿になった二日間は、何もしてやれない自分を恥だ。
一番不安な蘇芳のために白狼は猫田部長から特別業務として自宅で仕事することを許可され、蘇芳と珊瑚の世話をしつつ、紅妖狐について調べていた。
蘇芳が心を閉ざしてしまったので、白狼は一人で酒屋を訪ねた。
銀山から流れてくる水と米から作った焼酎。『天真酒造』でそれを入手しつつ情報を手に入れようと画策しての行動だった。
一般公開されていなかった小さな酒造で、建物自体は重要文化財に指定されているようで丁寧に手入れされた木造の温かい造りになっている。
銀山から近い立地に関わらず、白狼が天真酒造を知らなかったのは、神社の奥にあることとその神社で神に奉納するためだけに作られ続けられていた為に世に出回りだしたのは最近だということ。
猫田部長の話によれば、子どもが神と人間の間の子。つまり両親のどちらかが神であるかもしれない。蘇芳の運命を作り上げた神のヒントが貰えるかもしれないと。
静まり返った酒造の中へ入る。
「すまない。電話で伺った大和だが」
「はいはい。電話を承ったのは私です」
蔵の奥から下駄の音がする。すると白狼の腰ぐらいだろう小さな子どもが金色の箱を持って歩いてくる。
「今、父はは白山へ遊びに行って留守なので、私が対応いたしますよ」
小さな子供にマリや珊瑚が重なって微笑む。すると、その子は白狼の笑顔に怖がることなく微笑み返した。
「師匠が年に数本しか創らないこれがほしいんですよね」
「いや、俺は紅妖狐について知ってることあれば知りたいと」
「紅妖狐?」
きょとんとした顔で首を傾げられ白狼も戸惑う。小さな子が知らないのは仕方ないとしても、期待していた気持ちが萎えそうになる。
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