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八章 一

***  Side:末摘 蘇芳  エレベーターの中に押し込められ、再びドアが開いた時、知らない階に下ろされ、特別室に引きずり込まれた。  引っ掻いても噛みついても、蹴り上げてもビクともしない。暴れる蘇芳の口を押さえたまま、暁はベットの上に放り込んだ。 「暴れても叫んでもぜーんぶ無駄だよ」 「何が目的だっ」  にちゃあっと気持ちが悪い笑顔で、ベットの上の蘇芳を見下ろす。が、すぐに微笑み、背中を見せドアの方へ歩いていく余裕の差を見せつけた。  部屋の鍵をかける。部屋が数室見える。風呂場もある。暁がどうしてこの部屋に忍び込んだのか知らないが、蘇芳は着物の首元を掴みながら、後ずさる。  帽子をどこかで落としたのか耳が震えているのが相手に見えてしまった。 「何が目的だって聞いてるんだよ」 「イアフさまは君に子どもを産ませたくなくて奔走してるけど、俺はちがう」  センスの悪い、真っ黒なジャケットを脱ぐと、ベットに一歩近づく。 「……君、僕を抱こうとしてるの?」  白狼じゃない男の子種を注がれる。好きでもない、いや逆に嫌悪しかないこの男に注がれる。  そう思うと気持ち悪くて、身体が震えた。 「俺はさ、別にあんたに死んでほしいってわけじゃないんだよ。でもここで運命が止まるのがただ許せないんだよ」 脱いだジャケットのポケットから何か取り出すと指に挟んで蘇芳の目の前に差し出してきた。 「あの男は駄目だ。この男の記憶を遡ったが、面白くなかった。あれはお前を美しく輝かせない」  逃げようと退く蘇芳の尻尾を掴むと、引きずりベットに転がす。  見下ろす暁は、蘇芳の呆然とする顔をまるで美しい宝石のように優しく触れてくる。 「どんな絶望の前でも、死にゆく間際でも、紅妖狐は美しくなくてはならない。震え怯えても、逃げないで運命を受け入れる、それが君の種族だろ」 「……貴方は誰なの」  尻尾を掴む手を蹴ろうとも、痛い様子も見せずただただひたすらに見下ろしてくるこの男。屋敷に来たときとは様子が少し違うが、それでもあの時から異質で不気味な雰囲気は醸し出していた。逆らえない。逆らってはいけない。 「駄目だよ。君は運命の相手と幸せにならないと。老いぼれなんかと天秤にかけていい運命じゃないだろう」 「なぜ紅妖狐の運命を知ってるの。貴方、誰なの」 「今はそれはどうでもいい。私は、君が運命を全うしないのであれば、この男の精を注がなければいけない」  カチャカチャとベルトを外す。手に持っていたものが邪魔だったのか口に咥え、ベルトを緩めるとファスナーを下ろす。

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