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八章 三

「――っ」  好きでもない雄を宛がわれる。熱が蘇芳の肉を裂こうと押し付けてくるのを感じた。 「嫌だ。精が注がれなくても、やっぱ嫌だ」 「暴れても君の力では敵わーー」 「暁さんっ」  名前を呼んだ瞬間、濁っていた目が大きく見開かれた。 「暁さん、やめて。僕を、僕を白狼のもとへ帰して」  操られている中の暁へ叫ぶ。無駄な行為かもしれないが一か八かの賭けだったが、彼は動きを止めた。  頭を押さえて目を見開く暁の下から簡単に逃げ出せると、はだけた着物に躓きながらも逃げる。 「そうか。お前、白狼が好きか。そうか」  自分に向けて言われたのかと一瞬だけ足を止めたが、ぶつぶつと中の暁に話しかけているようにも見えた。 「馬鹿か。早く行け!」  怒鳴る声は暁だったに違いない。病室を飛び出した蘇芳は一目散に走りだした。 ***  誰かに伝えなければ言えない。助けを求めなければいけない。重い着物を引きずり、全く進まない鉛のような足を動かしながら走る。 走り出すとすぐにヒナが廊下から飛び出してきた。 「蘇芳さん、貴方どこに居たの」 「ヒナさん、それが――」  言い終わらないうちにヒナの隣に白狼が立っているのに気づいた。 「白狼、どうして」 「どうしたんだ!」  乱れたという説明だけでは納得できないだろう。ほぼ肩にかかっただけの着物で急いで蘇芳を包むと、白狼の毛が逆立った。 「白狼、僕のことはいいから特別室に暁さんが居るの」 「暁がどうしてここに」 「操られているみたい。中に多分、僕の種族に呪いをかけた神様が、いた」  確信はないが、と言い終わる前に白狼は走り出した。横をすり抜けて駆け抜けていく白狼は、いつもの温和な姿はない。流石狼の末裔だと、こんな時でなければうっとりしていただろう。  走り去った白狼を追いかけようにも腰が抜け自分の肩を抱きしめて蹲ってしまった。  立ち上がろうにも、安堵したせいか先ほどの行為で触れられた肌が気持ち悪くて仕方がなかった。 「蘇芳さん、着物着直さなきゃ。部屋を借りましょう」 「あ、うん。ちょっと待ってね。安心したせいで足に力が」  気丈に立ち上がろうと思うのに、全く動かない。  ヒナが自分の羽織を肩にかけてくれ、座ったままの蘇芳のはだけた前を隠してくれた。

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