93 / 168

八章 五

 大和家の人脈を使っても見つけられないとなれば、きっとイアフのもとへ隠れたのだろう。  黒山の管理をしていた烏丸家だ。あの空気になれている分侵入されるのも容易かったのだろう。  蘇芳にどんな手荒いことをしたのか考えると腸が煮えくり返りそうだったが、暁を怒ることはできない。彼自身の精神は無事なのだろうか。  ヒナが横で抱きしめ、白狼が運転して帰宅すると、既に屋敷の周りには何人もの護衛が待機していた。今日は交代で朝まで見張りをしてくれるらしい。 「白狼、蘇芳さんは無事かい」  白狼の母も珊瑚とマリの面倒を見ながら待っていてくれていた。 「なんか、僕のせいですみません。門の前とか何人も人がいましたが」 「気にしないでいいのよ。こんな時の大和家なんだから」 「話はあとで。すまないが蘇芳さんの手当てがあるので人払いを頼む」  すぐに蘇芳の体を清めようと風呂へ向かおうとしたが、ヒナがそれを奪う。  母とヒナが目配せし、蘇芳に言えないなにかを伝えようとしてくる。 「私が蘇芳さんの着物を脱がせるから。白狼は着物をぞんざいに扱うでしょ」 「あ、ああ。では」  風呂場へとヒナが蘇芳を連れて行く。母は布団の上で大の字になって眠っているマリと、丸まって眠っている珊瑚を撫でながら大きくため息を吐いた。 「どうしたんですか」 「白翁さんが病室から消えていたの」 「なんだって」  蘇芳を襲って混乱に紛れて浚ったとでもいうのだろうか。 「一人で動けるような軽いけがではないでしょう。それに蘇芳さんの育ての親のような存在だとか」 「やっと再会したというのに、次々となぜ」  襲われて傷ついている蘇芳には言えない。が、彼に見つからないように一刻も早く探し出さないといけない。  縁側から空を見上げれば、中秋の名月まで数日。ほぼ満月に近い形をしている。中秋の名月は理性が上手く保てないので役に立たないだろう。それまでに白翁を見つけてやりたい。 「どんな些細な情報でもいい。集めたい。白翁さんなのだが、もう一つ調べたいことがある」  風呂場にいる蘇芳のもとへ向かいたくてうずうずしていたが、酒造での言葉が気になった。 「大和家が人と共存する道を歩み出したのは、二百年も経っていないはずだ」  最後の日本オオカミが目撃されたのは百年前。その前に絶滅か共存かで、最後まで狼として生きると道をたがえた狼もいたと聞く。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!