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八章 八
「何が言いたい?」
「貴方に触れてほしいのに触れてもらえない。はやく穢れた体を清めてほしいって」
煙管をその場に置くとヒナは立ち上がり、屈んで白狼の顔を覗き込む。
すると甘い匂いに、酒に酔ったような熱が全身に広がっていった。
「リラックスさせる香りを漂わせてみたのよ。心も体もリラックスさせる香りだよ。狼に効く強いアロマだから周防ちゃんも」
「……なんだ?」
怪訝そうに睨むが、飄々と笑って白狼の唇を指でなぞった。次に自分の微笑む唇を、なぞって愉快そうだ。
「ちょっと気持ちよくふわふわしちゃう薬だから、少量ね。猫で言うマタタビみたいなものよ」
名残惜し気に白狼の頬を撫で上げながら状態を起こす。
先ほどから眉を顰めてしまっていたこの匂いは、煙草ではなかった。
それが分かったときにはもう遅い。ヒナは出ていくが白狼の身体は熱く火照っている。
「ヒナ!」
「あら、頑なすぎる白狼にはいい薬よ」
「俺は蘇芳さんを大切にしたいんだ」
「その考えが変わらない限り、あんた達が結ばれないって言うのよ。馬鹿ねえ」
冷たい言い草で去っていく。ヒナの言わんとすることは分かるが、荒療治すぎる。
「蘇芳さん、きつくないですか? お水を飲んでください」
部屋に戻り、窓という窓を開ける。すると蘇芳が、立ち上がって白狼を見上げる。
布団の上で白狼に獣の姿で抱き着くと、匂いに熱を植え付けられた白狼は、受け止めることもできず一緒に倒れこんだ。
獣の姿からゆっくりと人型に戻ると、同じく火照る身体で一歩よろけながら近づいた。
「だめ。身体の奥がうずうずする」
「蘇芳さ――」
言い終わらないうちに崩れ落ち、何も身にまとっていない白い肌を惜しげもなく曝け出し、身体を震わせていた。
「無理。――白狼、欲しい」
「蘇芳さん」
「暁さんの身体を操って、色々触られた。白狼の熱で上書きしてほしい」
白い足の間から、固くそそりたった蘇芳自身が顔を覗かせ蜜を滴らせている。
とろりと溢れるたびに、男を誘惑する甘い香りを放っている。ヒナが炊いたお香よりもこの香りの方が辛かった。
「奥がむずむずする。止まらない――」
「待ちなさい。落ち着いて。このままじゃだめです」
「ふわっ」
足に力がこめれないのか白狼の上で上半身もうまく起き上がらせられない足。
助けてあげたいが、蘇芳の乱れ誘うような姿に躊躇する。
絶対に何もしないという固い決意が簡単に壊れてしまいそうな艶っぽい姿だ。
「はく、ろ」
舌足らずな声で名を呼ぶと、白く折れそうな手を伸ばす。
途端にまた甘い香りが広がったが、それはヒナの薬の残り香ではなく、蘇芳から湧き出ていた。
「水を飲むんだ。体内から出してしまおう」
眩暈がしそうなほど甘い匂いの中、肩を掴み起き上がらせる。
「んっ」
気を付けていたが、服が乳首に掠れてしまい甘い声が漏れた。
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