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八章 十

 きっぱりという白狼に、蘇芳がまた目に涙を溜めた。身体も自分の意思で発情しているわけではなく、力が入らない。酔ったようなふわふわな足取りで、目の前に好いている相手がいる。  ただそれだけなのに、二人がここで本能に従ってふれることは難しい。  だが蘇芳は畳まれている自分の服から、あるものを取り出す。 「これ。さっきの病室で拾った避妊具」 「蘇芳さん」  小さな箱を振っ繰り返すと、五つほど畳の上に落ちた。  それを口に咥えて四つん這いで白狼のもとへ戻ってくる。 「これでだいひょうぶでひょ」 「なんて言ってるか分かりません」  手で奪い取ろうとするが、がっちり噛まれている。お香で上手く力が入らない今、取り上げるのは難しかった。 「……本当に蘇芳さんも諦めない?」 自分でも聞き方が子供っぽくなってしまったと自覚はあるが止まらない。 「諦めないで、その命を預けてくれるか?」  もう言う一度聞き直すと、蘇芳は涙を溜めて頷いた。噛んでいたコンドームを口から話すと声を震わせた。 「白狼は、――白狼は辛くなったら諦めて」  抱きしめながら、そういう。そういうしかなかったが、揺るぎない本当の願いだった。  自分か白狼を訪ねてきた。打算だったのは彼がこんなに真面目で真っすぐで、好きにならないはずがないような良い男だったことだろうか。  蘇芳は恋を知らない。ただ兄を見て憧れて、そして怖くなっていた。  その蘇芳を、白狼も抱きしめる。 「俺は諦めない。だが、今は蘇芳さんがつらそうなので、その」  少し言葉を濁らせて耳にささやく。 「俺が暁が触れた場所を、上書きして消していいだろうか?」  驚いて白狼の顔を見ると、真っ赤に染め上がっている。 「全部教えてほしい。怖いならやめる」  後ろから抱きしめて、高ぶってそそり立つ蘇芳自身を握りしめた。 「怖がっても止めないでほしい。僕も触りたい」  蘇芳が、高ぶった肉茎を触ろうと手を伸ばそうとしたのを、腕を掴んで制止する。  後ろから抱きしめてるだけでも、荒い息がフーフーと蘇芳の耳にかかっている。  少しでも触れられてしまったら、押し倒して貫いてしまいたくなる。細い体だ。傷つけるのが目に見えている。  必死に理性を押さえながら、欲望を鎮めようと蘇芳の肉茎を握る。 「傷つけたくない。触ってもいいか」  その瞬間、蘇芳自身から甘い香りが放たれた。頭を持ち上げ、臍までそそりたっていた肉茎からも涙が滲む。 「いちいち聞かなくても、白狼ならいいんだよ」  振り返った蘇芳が小さな舌を必死に伸ばすので、食らいつくように唇を重ねた。  

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