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九章 五

「あはは。素敵だね、それ」  まだ少し身体に力が入らないので、布団にくるまっていると白狼はおもちゃを片付け終え、端のおもちゃ箱からこちらに戻ってきている。 「……君の運命から解放されたら、俺も我慢はしない」 「ふふ。白狼、格好いい」  両手を伸ばすと、嫌そうなそぶりもせず隣に来てくれた。布団の中までは入ってこなかったが、隣で寝転び蘇芳の髪を撫でている。  こんなにいい男で、これほど頼りがいがあり、優しいのに誰も手を出さなかったなんて愚かなことだ。 「君の乱れた姿を病院で見た時は心臓が止まるかと思った。同時に相手を捕まえて殴り殺してしまうかと自分でも自分が恐ろしかったよ」 「あは。ごめんね。驚いたよね。僕も怖かったけど。でも今は大丈夫だよ」  布団をめくり、白狼を誘う。  白狼は無表情でクールを装ってはいるが、尻尾がぶんぶん揺れていることに気づいていない。  仕方なく布団に近づくと言った様子だが、尻尾まではクールにできていない。 「蘇芳さん」 「うん。僕も隣に白狼がいてくれるから怖くない」 「……イアフさんは君を俺から離したいんだろう。暁を使ってでもやりかねない」」 「させないで。守ってね?」  蘇芳の気持ちを丁寧に解きほぐし、聞いてくる。正直に言えば、白狼もその気持ちを受け取り信じてくれる。  もう一度抱きしめてくれたが、それはセクシャルな意味はない。暁に乗り移った神から触られるのは怖かったという蘇芳が、積極的に触ってくること。トラウマにならず触れてくることが白狼は嬉しかったのだろう。怖いと評判の顔がほころんでいる。  今の白狼を見れば、怖がる人間はいないだろう。けれど独り占めしたくて抱きしめた。  その日の夜は、珊瑚と蘇芳と白狼の三人で眠った。ヒナが、蘇芳の姿を見て胸を撫でおろしていた。汚れ役をすすんでやってくれた彼女に、白狼がお礼を言ったが、その親密さに蘇芳が頬を膨らまし拗ねたのが大変で白狼は逃げる蘇芳を捕まえ、どうにか一緒に寝たのだった。

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