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九章 八
***
その後、白狼は中から鍵を二つ掛け、蘇芳にも一つ掛けるように言った。
夕暮れのオレンジ色の空に淡く光る中秋の名月。
玄関からこっそり珊瑚を抱きしめながら蘇芳は見上げた。
「珊瑚、今日はお月見泥棒が来るんだよ」
モフモフした珊瑚を抱きしめる。銀色の美しい毛並みはイアフを彷彿させる。白狼の尻尾も耳も同じ銀色だが、あちらは青みかかっっていたっけ。
首に巻いて喉を撫でると、嬉しそうに一声鳴いた。
「楽しみだねえ。色んな種族の獣たちに会えるよ。仲良くなれると、いいねえ」
玄関の前でお菓子の籠を持って、子どもたちが来るのを待っていた。
だが最初に来たのは子供ではなく、以前護衛として紹介してもらっていた佐奇森と黒曜だった。二人は黒いスーツに槍を持つアンバランスだ。
「申し訳ありません」
「……どうしたの」
「今宵は大和家の皆さまをお守りするので、蘇芳様も人前に出るのを控えていただけますか」
「でも用意したお菓子は?」
段ボール数個注文し、ラッピングまでしたお菓子だ。白山と銀山の子どもたちが喜んでくれるよう蘇芳も楽しんで用意していた物だった。
「門の前に置いて、自由に取らせましょう」
「門だったら僕も一緒に居させてよ。庭まで。庭までならいいでしょ」
珊瑚を首に巻いたまま、靴を履こうとすると佐奇森と黒曜の二人を遮るようにヒナが玄関に入ってきた。
「満月に備えて屋敷の周りに結界を貼ってるの。庭にも極力出ないでほしい。結界が壊れてしまうかもしれない」
「……そ、う。そうなんだ」
仕方ない。ヒナも護衛も蘇芳がこの日を楽しみにお菓子のラッピングを頑張っていたことを知らないのだ。三人が籠を持っていくのを、子どもが駄々をこねるように止めるわけにはいかず、見つめるしかなかった。
「……ですか」
「……駄目って言ったでしょ」
ヒナたちの声が小さくなって、こちらを振り返ることもなく消えていった。
門から玄関まで数十メートルだ。夜に染まった庭も門の外もそう違わない。
「残念だねえ。玄関から覗くだけにしようか」
心にも思っていないことを珊瑚に言いながら、薄く開いた玄関のドアから『お月見泥棒』たちを見た。
「名月おーくーれー」
「名月ちょうだーい」
元気いっぱいにやってきた子どもはタヌキの可愛らしい耳と尻尾の幼い兄妹だった。
「どれにしようか」
「このピンクのリボンのおかしにする」
二人で一つの大きな袋を持ちながら、二つのお菓子が減った。
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