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九章 十一

「そうか。あれは蘇芳さんが一番頑張って用意したものなのにな」 「でもいいよ。だって、子どもたちの声を聞きながらまぐわうのって背徳感があって、スリルを味わえるしね」  着物を脱ぎながら、口に避妊具を咥えた。理性より本能が強い今、使わないで中に注いでくれるだろうが、それは白狼が望んだことではない。蘇芳も今は愛情で繋がりたかった。 「最初から甘い香りで惑わす、怖い人だった」  避妊具の端を噛み、蘇芳から奪う。手に持ち、 「今も?」 「蘇芳色の服を割ると、誘うように白い肌を惜しげもなく見せて、俺の理性を消し去ろうとする」 「ふふ。香りか。白狼は僕の香りに酔っているだけだね」  それでもいいよと跨る。片手が不自由な白狼を、リードしてあげねばと使命感からだったが、煽る行為に、右手の先をつけたドアノブが錆びた音を鳴らしている。簡単に剥がれてしまいそうだった。 「最初は香りだったかもしれない。だが運命を受け入れて、強かに生きる蘇芳さんが自分を選んでくれて、誇りに思えた。この人に心から選んでもらいたいと。まあ、振り回されてばかりで落ち着いて気持ちを伝えたことはなかったが、愛らしいと思っていました」 「愛らしい。それとすごくえっちでしょ?」 「そうだ。そこは悪い部分だ」  首に抱き着くと白狼の目の位置に胸を押し付ける形になる。ざらりとした舌が舌から上へと舐めがると、腰の奥が甘く疼いた。  舌で舐めていたが、赤く熟れた突起を口の中で転がすと、八重歯に当たり嬌声が止まらなかった。  甘い言葉、優しい愛撫、興奮している愛しい人の荒い息。  全てが体の奥を濡らしていく。跨り布越しに感じる白狼の熱芯を感じたくて、自分から擦りつけた。 「白狼、僕を抱きしめて。じゃないと、僕――」  言い終わらないうちに片手が蘇芳の後ろ頭を掴み、抱き寄せる。互いの匂いに興奮し、止められなかった。

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