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十章 三
白狼の答えも聞かず、珊瑚の世話を引き受けてくれるらしい。
お菓子の籠の中は、蘇芳がラッピングしたお菓子だけじゃない。色んなお菓子やどんぐりに木の実に葉っぱが入っている。彼はこれを見たのだろうか。
身体に触れたのに、心に触れることはできなかった。離れていったのは、蘇芳の心を気づいてあげられなかった自分の未熟さだった。
***
Side:末摘 蘇芳
電話一本で迎えに来たのは、いつぞやのドアの多い車。白狼がリムジンだと教えてくれた。
外交官や来日された大使を送迎するように国が手配している車らしい。
この車で迎えに来るということは、白狼たちに居場所を伝えることになるが、本人は隠れもせず堂々としている。
連れ去られた場所は、都内から一時間半ほど車を走らせた別荘地帯。森林に囲まれ、緑景に囲まれた別荘が立ち並ぶ一番奥の一等地部分をすべて買い取っているようだ。
「ここは仕事で都内に来た時に、ソヒと使っていました。少し君たちが住んでいた社に似ているでしょう」
銀色の長髪を靡かせ、優雅に歩き回りながらイアフの口調は弾んでいた。
「まああの澄んだ空気と海は、ビルの檻の中では再現できないか。おいで、スオウ。おやつの時間にするよ」
私邸に案内されると、中は絵本で見た外国の家の中のよう。暖炉、アンティークの家具、飾られた絵画。外のウッドデッキに案内されると、イアフの世話係がお菓子の用意をしてくれていた。
マカロン、マシュマロ、ケーキスタンドに乗せられた一口大のケーキ、フルーツの盛り合わせ。
可愛らしい盛り付けは、女性が見れば黄色い声を上げて喜びそうだった。
極めつけに、イアフがジャケットを脱ぐと、腕のボタンを緩めながら紅茶を煎れてくれる。
「イアフさん、僕はお菓子を食べに来たわけじゃないですよ」
「分かってますよ。取引でしょう。あ、角砂糖も可愛いんです。お花の形ですよ」
「……可愛いけれど」
白狼や白翁が共にいれば騒いでいたかもしれない。村に住んでいた時、たまにイアフがお土産として持って来てくれたお菓子たちは全て頬が落ちるほどおいしいものばかりだったからだ。
「大和家はおまんじゅうとか、『オコタデミカン』とかでしょう」
「炬燵はまだこの季節はないよ。じゃなくてね、白翁の居場所だよ」
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