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十章 四

 会ってすぐに『白翁を返せ』と詰め寄ると、イアフは目を丸くした。  白翁が居なくなったのは、イアフとは無関係だったらしい。暁も数日前まで普通にここに居たらしいが、ふらりといなくなった。その間に蘇芳が襲われたことも白翁がいなくなったことも知らなかったと。 「だから全力で調べさせてますよ。暁のピアスには発信機をつけています。信用していなかったから、ね。ふむふむ」  白翁を調べて数時間。パソコンに送られてきた情報によれば、白翁は病室のドアが開けた形跡はなく、窓が開いていたが何者かが入った気配も争った気配も当然ない。飾っていたススキが錯乱していたが風のせいだろうという報告だった。 「ススキは神を宿すために飾るのですね」 「白狼はそう言っていた」 「じゃあ浚ったのは神ですか。日本のゴットは、種類が多すぎて見当つかないですね。八百万の図鑑とか一覧表とかないのですかね」  悠長なことを言いながら、葉のいい香りをまき散らしながら紅茶を手渡してくる。温かい紅茶に角砂糖をいれると、満開に咲いていた花びらが散って沈んでいくようで、甘い香りの代価に消えてしまうのが少し演技が悪かった。 「白翁がここにいないなら僕は白狼のもとへ戻ってもいい。でもイアフさんが」 「私が彼を探し、血を分けて命を助ければ、私のもとにずっといてくれる。それが取引でしたね」  イアフは何個も角砂糖を放り込みながら、うっとりと目を閉じて紅茶の匂いを味わう。 「もちろんですよ。スオウのお願いなら私は全力です。すべての権力を使って探しますよ」  マカロンとケーキ、苺をお皿にとりわけ、蘇芳の目の前に置くと、両肘をつき、顎を両手にのせて蘇芳が食べる姿を微笑みながら見ている。  そんなに穴が開くほど見られては、せっかくの高級菓子も味がしないというものだ。 「あの」 「私は、本当は今でもスオウもハクオウの考えも理解できていないのですよ」 「……うん」 「二人は、ソヒの死を悲しまなかった。スオウもハクオウも、運命を全うした、当然の結果だと彼の運命をたたえた。なぜ、泣かない。なぜ悲しまない。なぜ悼まないのだろうと」 「うん。兄は珊瑚を産んだ。彼の死を尊敬はしても僕は悲しまないよ」 「死とは、もう会えないこと。笑い合った時間も抱きしめた時間も戻らない。思い出の中から動かない。君の方が狂っているんですよ」  悲しんで動かない。兄の死から抜け出せないイアフの方が異質だと蘇芳は思っているが、お互いの価値観は埋まらないようだ。 「仕方ないから、ハクオウを探し出して彼から説教しましょう。赤子を連れ去ったのも彼の悪知恵でしょう」

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