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十章 六

 まるで一緒に散歩に行こうと誘うような、言い方に蘇芳は三個目のマカロンを食べながらポロポロとカスを落としてしまう。  白狼がどれほど誠実で愚直なほど真面目だったのか、破天荒な行動しかしないイアフのそばにいると改めて痛感できる。  全く真逆な二人が面白くて、蘇芳もケーキを一つ口に放り込む。 「そうだね。目的は違うけど僕も神に運命を止めてもらいたいな」 「暁を探しましょうか。それとも暁は、操られたまま帰ってくるかもしれませんね。そうすれば暁ごと捕獲すればいいのです」  優雅に紅茶を飲みながら、報告書に目を通しながらこの調子で話す。 「意識不明の重体で白翁が居なくなったんだから、僕は急いで探したいの。僕の運命より、先に白翁探してよ」 「もちろんですよ。ソヒの時には感じなかった貴方の人間らしい感情は、大切にしたいですからね」  任せてくださいと言いつつ、マカロンに手を伸ばす。優雅で悠長で、ゆったりしたイアフの言動に蘇芳はイライラを隠せない。 「もういい。僕、探しに行く。病院の周りとか」 「いいですね。ドライブ行きましょう。さきほど私のファンの方に真っ赤なスポーツカーを頂いたんです」  白翁が入院していた病院は白山のふもと。その場所に目立つ真っ赤な車で乗りこむとは、図太いというか狂っているというか。  蘇芳が焦れてイアフを睨むと、人の心を操るような綺麗な声で、言う。 「座りなさい。スオウ。私はね、ソヒが居ない世界にもう恐怖はないんですよ。何でもして差し上げますから」  大丈夫です、私を信じてと。  何度も何度も言うイアフの言葉に、操られるように蘇芳は素直に座り、紅茶を手に持った。  ***  Side:大和白狼  蘇芳を連れ戻す。  その行動に少しの迷いが浮かんでいた白狼の目の前に、意外な人物がやってきた。  じゃらじゃらとつけた耳のピアス。真っ黒のスーツ。にやけた間抜け面。 「よ、白狼」  ふらりと居なくなっては、手持ちが無くなり山へ戻ってくる。昔から何も変わらない言動だ。  だが蘇芳を襲ったあとでは話が別だ。暁を見た瞬間、言葉よりも早く白狼は首元を掴み、背負い投げしていた。 「いてっ こ、殺されるーっ」  わざとらしい悲鳴に、珊瑚と縁側で日向ぼっこしていたヒナも目を覚ます。近くに止まっていた鳥が木々の葉に当たりながら空高く逃げていく。心地よくて眠ってしまっていた珊瑚は悲鳴の主につい眉を寄せてしまっている。

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