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十一章 一
Side:大和白狼
季節を感じてほしいと白狼は蘇芳に伝えていた。
その言葉を伝えても蘇芳は季節に鈍感だった。ただ空気が冷たいか暑い程度の違いだったかもしれない。しかし今もその気持ちは変わらない。
日に日に太陽が落ちる時間が早くなるのを感じる一緒に居られる今日が終わる。それは恐怖でもそ今日も又一日傍に居られた幸せでもあると知ってほしい。
「珊瑚は寝たか?」
珊瑚を抱っこして、縁側で寝かしつけているヒナに後ろからそう尋ねる。
「うん。寝たかも」
「ミルクは次は0時ぐらいだな」
「そうだね」
「先に風呂に入ってくれ。俺はもう出かけないといけない」」
縁側の戸を閉めながら、白狼が隣の山を見る。ふわりと青白い明かりが、延々と続く鳥居の周辺を照らしている。
「来ている。これから七日間、ゆっくりのんびりと歌いながら進み、頂上で神々が戯れる」
「いつみても神々しい光ねえ」
もう少し日が立つと、集会が近くなれば、囃子太鼓の音や、楽器を鳴らす音が聴こえ賑やかになる。
この世のものではない、綺麗な光が飛んでいる。美しいのに、どこか恐れ多く、見ることすらもためらわれる。
「……大丈夫だ。傍に居る」
肩を支えられ、蘇芳と珊瑚を包み込むように抱きしめた。
「俺は物心ついたころからあの光を見てきたから、ああ、また今年もこの時期かと思っていた」
「ここで育ったんですものね」
「けれど今は、緊張している。ただ此処で疲れを癒しに来て楽しんでいる神々に、今は縋る。あの光の中に蘇芳の運命を変えてくれる神もいるかもしれないと。希望が見つかればいいと、気だけ焦るな」
「こちらに向かっているイアフさんは?」
隠れることも臆することもなく、黒山を目指しやってくると情報を受けている。そこに蘇芳の姿も確認されたと。これだけの美しい光景だが、彼は躊躇せず鳥居をくぐっていくだろう。
「信用していいかわからないが、暁に先に行かせた。もう近くには来ているらしいが、今は敵でも見方でもない」
今はただ、祈るだけだと。美しすぎて恐ろしくも感じるあの中に、二人の希望が託されている。
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