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十一章 四

 嘘偽りのない真っすぐな言葉なのに、気障たらしく感じて蘇芳は微笑む。すると、数本向こう側の鳥居に人影が見える。黒い羽根を羽ばたかせ、空に羽が舞い上がっている。 「白と蘇芳色、じゃあ俺は烏だから黒かな」 「暁」 「どんな色も、一緒に居れば黒にしてしまう。交われねえんだよ」  苦笑しつつ歩いてくる。その姿は、何ら変化はない。ごちゃごちゃと飾りがついた黒のブーツ。だらしなくボタンも止めず、ジャケットにノーネクタイ。普段通りの、いい加減な暁だった。 なのに、蘇芳を背に隠してしまうのは中の神が垣間見えるせいか。 「お前、ここで何してる? イアフさんの方は?」 「ああ、イアフさんなら先に行ったよ。もう頂上に着くんじゃねえかな」  真黒な長い髪を掻き上げつつ、暁は面白そうに口を歪ませた。 「なぜだ。イアフさんの狙いはお前の中の神だろ」  暁は両手を上げて、お手上げポーズをとると、山の頂上を見上げた。 「人魚様が何を考えているかは俺には理解できないんだよ。陸に滅多に上がってこない気高く上等で、珍しく美しい種族。大和のおじさんも会ってみたいと言ってたんだ」 「……お前、イアフさんと父の面会も企てていたのか」 「まあね。俺みたいなフラフラしてる奴が人魚に近づけるとしたら、虎の威を借りる狐にならなきゃね。あ、今の君みたいだよね」  クスクスと笑う暁に、毛を逆立てて蘇芳が警戒しているのが伺える。 「親父が大和家の秘書だって言って近づいたけど、そうしなきゃ話しもしてもらえなかったんだよ」  苦笑し、悪意はないと両手を上げる。けれど蘇芳の警戒は消えなかった。 「ある意味、あの人だって神でしょ。人魚の肉を食べたら何百年も生きれるとか、血を飲めば長寿になるとか。人間に殺められるか奉られるか。可哀そうに」 「暁。もういい。お前は上へは行かないのか?」 「行くよ。だからイアフさんを独りで登らせてまでお前を待ってたんだろう」 顔に笑顔を張り付けている。 「お前たちと行きたいから、待ってたんだ」  じとっと空気が肌に張り付く。それが嘘のように感じたからだろうか。下手くそな芝居に付き合わされているように思えた。 「蘇芳さん、先に上の様子を見てきてほしい。父に伝えてほしい」 「……なんで?」 「一刻も早く、頼むぞ」  訝し気に白狼を見た後、嘆息して踵を返す。 「無駄だよ。何も変えられねえのに。馬鹿な狼」

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