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十二章 七
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何層も連ねている、鳥居の深海の中を潜る勢いで下っていく。
運命は確かにある。ときに捩れ、時に捩じれ、自らの首を絞めようとも変えられない運命はある。
会えるともわからない白狼を探して、この山に向かってひたすら走った時から、蘇芳の運命は決まっていた。
誰かもわからない。けれど助けてくれる相手は誰もいない。自分はただ子を産み、種を残すだけ。運命の輪廻からは自分は逃れなくても、兄の子の珊瑚だけは、そこから抜け出せる。絶望ではない。そんな生き方しか知らなかった。
けれど一度知ってしまった、白狼という人間。今はもう自分の運命が、異質だと知っている。幸せの定義が覆された。 彼のそばがいいと、共に寄り添える相手がいるのだと。
「白狼!」
鳥居に寄りかかり、荒い息を吐く白狼を見つけ、大声を上げて近寄る。耳は、ぴんと伸び、尻尾と共に弱さを見せない。
「……白狼、だよね?」
中に、あいつがいるかもしれない。けれど不思議と怖くない。白狼が負けるはずないと、信じている。
「ああ。俺だよ。抑え込んでいるから、安心していい」
じっと目を見る。すると苦し気に揺らしたが、澄んだ目をしている。じとっとした粘着質なオーラも感じない。
「白狼の中にいるの?」
「いる。けれど俺には同情してやることも共感してやることも、同調してやる気にもなれなかった。自分勝手で、浅ましく、そして愚かだ」
きっぱりと言うと、蘇芳に微笑む。心配ないと、安心させるために。汗が頬を伝い、顎から落ちていく。生身の身体で、その中に神をとどめておくのは、どれだけ負担がかかるのか理解できない。けれど苦しいと弱音を吐く彼ではない。
「好いている人には、幸せになってもらいたい。俺と彼の考えの、根本的なものが違う。だから、負けるはずがない」
「白狼」
白狼の中で、彼が燻っているのが見える。消えそうに小さく弱い。本当に輝きの前で、偽りは霞んで色もない。 そもそも蘇芳の色鮮やかさに惹き付けられた時点で、色も何もないのだろう。 蘇芳は、躊躇することなく白狼を抱きしめた。
「白狼の中で分かるでしょ? 僕は白狼が好きだよ。一目会ったその瞬間から、どうしようもなく手を伸ばしてほしいと思った。貴方も一目会った瞬間に、紅妖狐が欲しくなったのだとしても、僕はあげないよ」
(白狼に言えば怒るだろうから言わないけど、白狼が暁みたいに適当な人なら、僕はこの運命を全うできていたんだろうな)
今はそれが怖いことだと理解している。
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