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十三章 四
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夏草を浚う風も生ぬるく、団扇で仰げど汗は滝のように流れる。
山のふもとのこの屋敷は木々の陰に隠れ、涼しい方だろうが、それでも日差しの暑い昼は、蘇芳は扇風機の前で丸くなっていた。
蚊帳の中で、一人と二匹は寄り添って寝るが、それが原因だろう。ふわふわの温かい二匹に挟まれ、白狼は今日も汗を浮かばせ幸せそうに眠っている。
夏の月は、落ちてきそうなほど大きく。どこかで一人、イアフも見上げている。蘇芳たちのためにと、南極の氷を贈ってきたりした。
納涼にと縁側に飾った風鈴、川に浮かばせた西瓜は、炎昼のうちに二人が壊し食べつくした。 猫田部長が爆笑し、冷房を買ってくれた時にはすでに秋が庭に入り込んできていた。
「蘇芳さん」
珊瑚と蘇芳が寄り添うので、上半身何も纏わず、甚平のズボンを穿いただけでうろつくようになった白狼。白狼が何気なくそう呼ぶと、恥ずかしそうに縁側の柱から顔を覗かせた。
「何を恥ずかしがってるんです? 夫婦になれば毎日見ることになるでしょ?」
強引に抱きかかえると、引っ掻かれた。抱きしめて、痛みを背中に残してくれたらいい。
それを信じ寄り添い、二人は諦めず、傍に居るのだから。
「明日はかき氷を作ろうと思う。暁がイアフさんからの本場の氷をまた届けてくれるらしい」
本場とはどこか分からないが、と笑う。すると蘇芳も笑うように鳴く。
かき氷は美味しく、頭がツンとすることなき一気に掻き込むことができた。
イアフと迫害された種族を保護するために世界を回っていると話してくれた暁は、幼馴染みでも知らない、満ち足りた笑顔をしていた。
夏の終わり、夏の灼熱を冷ます火祭りを白山の袂で行った。
林檎飴の美しい紅に夢中になった蘇芳に、買い与える。飴を割りながら食べたら、甘い香りを身に纏った。
久しく見ていない人型の蘇芳の方が、もっと甘い香りだったなと、白狼は微笑んだ。
「どちらの姿も、蘇芳さんが愛おしい」
夏の日は消えた。けれど二人の火は打ち消せない。
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