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十三章 十二

「もー。罰があたるぞ」 「うちの息子も一緒に蹴ろうとして、佐奇森たちに袋叩きにされたようです」 「それは日ごろの行いもある。仕方ないな」  ふふっとヒナが笑うと、蘇芳も白狼も吹き出した。  練り歩く蘇芳たちを見ようと、人だかりはどんどん増えていく。皆、柔らかな絹のような雨など気にもせず、行列の後をついてくる。  黒山のふもと、鳥居の前に来ると車いすに乗った白翁と、白狼の父親が正装して待っていた。 「ヒナさん、あとは頼みます」  白狼の父親が白翁に一礼、そしてヒナに一礼すると列の先頭に歩いていく。  白翁は蘇芳と白狼の隣に寄り添うように並んだ。 「蘇芳のこんなりっぱな晴れ着姿、いつ天に召されてもいいぐらい至極の幸せです」 「綺麗でしょう? 亀の刺繍もすごいよ」  頷く白翁に、蘇芳も花が咲き乱れんばかりに微笑んだ。 「あら、私を待ってくださらないのかしら」  ヒナが含みをこめた眼差しで白翁の顔を覗き込むと、誤魔化すように笑う。  主役二人を置き去りに二人の世界が出来上がっている。 「ねえ、白無垢って純潔の意味もあるらしいよ。僕、――昨日も意識が飛ぶぐらい乱れちゃったのに、これ着て良いのかな」 「ふふ。蘇芳さんはずるいですね。夜はあんなに乱れても、それを身に纏い澄ましていれば世界で一番美しいので」 「喋ったら馬鹿ってこと?」 「喋ると愛嬌があって可愛らしいです」 「ふふふ」  人力車の上でいちゃつく二人に、慣れているとはいえ周りも胸やけしそうな甘ったるい雰囲気に苦笑した。  空は晴天。柔らかな雨が降る狐の嫁入り。神社の前の鳥居には虹がかかっていた。  人々に祝福され、多くの神々が祝福に黒山のふもとに降りてくる。奉納された酒が、すでに何本か消えている。  木の陰から、蘇芳や白狼を見て見惚れている人外の子たちを手招きし、マリ達とともに列に参加させた。 「遅いですね。日本の結婚式は長くて退屈ですよ」  イアフが、暁に着せてもらった正装姿で立っている。銀色の髪に和装がミスマッチだが、着こなしている。  白翁は素直ではないイアフを見た後、「蘇芳」と呼び寄せる。  人力車から白狼にリードされ降りていた蘇芳が耳を寄せ、その言葉を聞いて頷いた。  イアフは珊瑚の首に巻かれたリボンをつついて時間を弄んでいる。 「お義兄さん」  蘇芳が駆け寄り、袖を掴む。 「お義兄さん。来てくれてありがとう」  一瞬目を見開いたイアフだったが「不意打ちだ」と片手で目を覆う。げらげら笑う暁に蹴りを入れながらも珊瑚に顔を舐められ、肩を震わせていた。  蘇芳の明るく天真爛漫な性格のせいで、厳かとはいかなかったが賑やかで、夢のような時間だった。 「あれえ、イアフさんが蹴った酒、どこに行ったか知らない?」

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