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十三章 十六

*** Side:大和蘇芳 ご懐妊の知らせは、まだ義兄のイアフには伏せていた。どちらにせよ、まだ世界中を飛び回っているので暁に伝言する形は避け、電話をくれるよう頼んだが音沙汰がない。 白狼は定時で帰ってきては、「大人しくしていたか」「饅頭の食べ過ぎはしていないか」「重たいものはぞ持ってはいけない」と姑のように自分が居なかった間の蘇芳の行動を聞いてくる。 心配性の白狼に、蘇芳は甘えて最低限のことしかしないようにしてはいる。 が、少しは身体を動かさないと訛ってしまいそうで、白狼に聞いてから手伝いをするようにしていた。 「蘇芳さん、さいきんきれいだよねえ」  呑気な言葉をかけられ、食器を洗っていた手を滑らせそうになった。白狼が風呂掃除をしていたので、見よう見まねで食器に洗剤をかけてスポンジで洗っていた。このやり方であっているのか、白狼の手順を思い出していた。そんな時に、背後からマリの声が聞こえ食器を持つ手が滑った。 「マリ、一人で来たの?」 「うん。珊瑚ちゃんに会いたかったし。あと今、家に暁のおじさんがいて、じゃまだから」 「暁さん、来てるの!?」  そんな連絡は、伝言を頼んだ時にはなかった。  最近、大和家に出入りが増えた気がする。  世界中を飛び回るイアフに引っ付いて回っていたせいで、どこにいるのか把握できていなかったはずが、最近は頻繁に帰国している。  イアフもイアフで、綿菓子のように中身のない暁と一緒に居るのは気が楽だと、最近はどこにいくにも隣に呼び寄せると風のうわさで聞いていたが、そんな暁がなぜだろう。 「もしかして珊瑚のお父さんもいた?」 「ううん。おじさんだけだよ。お父様と一緒に、やおよろずの会に参加するんだって。いやーね」 「マリは暁が嫌いなんだ」 「うん。うそんくさそうじゃない?」  まだ小学生にもならない幼い子が、生意気にもおとなぶった口調で背伸びしている。それが面白かった。 「ねーねー、珊瑚ちゃんは変化のれんしゅうしないの? マリと一緒にママにならう?」 「ああ。問題ないよ。紅妖狐は繁殖期を迎えれば自然と変化できる。赤ちゃん狐が、自分の変化後の姿に驚くのは可愛いんだって」  珊瑚はまだ運命を回避していない。彼自身が強く思うまでは神の加護がある。なので練習しなくても繁殖期に美しい人型に変化できるはずだ。  イアフは翡翠色の目が美しい。きっとサンゴも銀色の髪に宝石のような瞳になるに違いない。 「そうなの。蘇芳さんって物知りだね」  が珊瑚は少し特別だ。もしかしたら繁殖期前に人型になりえるかもしれない。 「……まあ、全部兄さんからだけど。僕たちは母親っていう存在を知らないから自ずと手探りというか」 「そうなのー? でも蘇芳さん、珊瑚にはとってもママできてるよ!」

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