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十三章 十九

 紅妖狐に女は生まれないせいか、尊く神秘的な存在にも見える。 「白狼、僕、女の子も産んでみたいな。無理かな」  お腹を撫でながら、マリの愛らしさを思い出し切なくなる。愛しいとはこんな気持ちだろうかと、滲む視界で感じる。懐妊は分かったがまだ仮腹の中に何人の命が宿っているかは三か月を過ぎないと分からないらしい。沢山来てくれているのならば、女の子もいてくれたらいいなと願う。 「無理ではない。不可能などない」 「白狼……」 「双子でも可愛いと思う。蘇芳さんは綺麗だからどちらも可愛い」  顔を上げれば、真っ赤な白狼の顔が見えた。 「あくまで、その、俺の考えだが、――本音だ」 「白狼っ」  体当たりすると、白狼は優しく肩を抱きとめる。 「なかなおりしてよかったねーー」  門から遠ざかっていたマリが、暁の父親の背中からこっちに手を振っている。  マリも心なしか満足げだ。自分が仲介したかのような大きな顔をしている。そんな無邪気さが可愛らしいのだ。愛おしくなる。 「何としても、君を縛るそのツマラナイ、悪しき運命を木っ端みじんに破壊したくなった。いや、絶対に破壊する」 「白狼、格好いい」  クスクスと蘇芳は笑うが、込み上げてくる涙は誤魔化せなかった。 白狼と出会わなければ、……死を怖いと感じることもなかった。ただ種を残すための儀式を、強く男としたかった。そう片付けれたのだけどれど。 今は違う。運命を自分たちで切り開いたのだと早く感じたかった。   

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