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十四章 六

「殴る価値もない、下種ですね」  殴った後にその台詞はおかしいと、暁が噴出した。が、「今回は俺も同感だ」と暁も不満を持っているようだった。 「お前、楽に死ねると思うなよ」  胸ぐらを離すと、車の中に乗り込む。 「乗るだろ? 今から蘇芳さんと珊瑚に会いに行こうとしたんだよ。さっき、黄昏れ屋で稲荷ずし買い占めてさ」  猫田部長の、店の名前を覚えないいい加減な性格はこのさい放っておくとしても、ほぼ売り切れだったのはこいつのせいかと睨みつけた。 「そんなに食べられない」 「皆で食べようぜ。土筆とか魚の天ぷらと一緒に」 夕飯まで居るつもりかと、げんなりしつつも助手席に乗り込んだ。 「イアフ」 「……どうしました、野蛮人?」 「俺は、蘇芳さんが自分の力で変化できるようになったのだから、あの人の力を信じてる。そう腹をくくったんだ」 「……ふん」  暁が、白狼の言葉を茶化す様に口笛を吹く。そのまま無言で車を発進させると車内は重たい空気になった。 「……信じられませんね。野蛮人のことは」 「だったら、信じてもらうまで態度に示す」  気に食わないのか、長髪の髪を肩に流しながら、足を組み替え舌打ちをする。 「信じられないので、珊瑚は連れて帰ります。……あの子が私でいいというのならば、ですが」  その言葉に目を見開いて振り返った。 イアフは外の夕日を見ている。 「もちろんだ。絶対に貴方を待っているよ」 「……ふん」  再び沈黙が辺りを包んだ。けれどもう重たくはなかった。けれど幸せに満ちている。 「はーくろーう」  車から降りて急いで向かってみれば縁側に座っている蘇芳がいた。白狼を見つけるや否や目を輝かせている。 「走るな。走ってきてはいけないぞ、俺が行く」 「うん」  両手を広げて待つ蘇芳に抱き着く。子どもたちの姿はどこにもない。 「白狼のお母さんとヒナさんが連れて行ったよ。珊瑚は奥でちびたちの玩具を片付けている」

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