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第3話

 綾瀬川学園と言えば、五本の指に入るマンモス進学校。幼稚舎から大学院まであり、政治家や財閥の子息令嬢が通っている。  初等部から高等部は男女別学になり、創設当時から薔薇の園やら百合の園と実しやかに囁かれている。 「起立、礼」  高等部一年Cクラスは落ち着いた雰囲気の教室だ。  学園祭の展示物を決めるホームルームのはずが、担任教師はどこか落ち着かない様子で溜め息を吐いた。  原因は窓際の一番後ろに置かれた空席。十五人定員のクラスで、十六個目の机が置かれているのだ。 「分かっていると思うけど、編入生がいます」  ざわ、と期待と不安に空気が揺れる。 「入ってきてください」  さらりとした黒髪に、まぁるい大きな丸眼鏡がきらりと蛍光灯を反射している。  学校指定ではない、詰襟の黒い学生服に身を包んだ細身の少年だ。顔の半分を眼鏡で覆われ、口元は真横に引き結ばれている。 「神楽坂氷織です」  あ、意外と高めの声だ。  成長期特有の耳障りの良いソプラノボイス。 「……神楽坂君、もうちょっと何かないかな?」  担任は白衣の似合う理系男子。担当クラスを持つにしては若く見える。  困り顔の先生に、短く息を吐いて「宜しくお願いします」とだけ付け足した。  クラスメイトとなる彼らの視線を受けながら、空いている席に座る。前の席の先生は机に突っ伏して眠っていた。  これからの学園生活に過度な期待はしていない。普通の授業を受けて、平凡に三年間を過ごせればそれでいいのだ。  魔法の使用は禁止されていないが、それはふとした拍子にボロを出さないように訓練をするためでもある 「うーん、神楽坂君への質問コーナーはあとからにして、まずは文化祭についての説明です。じゃあ委員長、任せた」 「はい。一年生は授業での展示物が――」  クラス委員長が前に出て説明を始める。  面倒くさい時期に編入してしまったなぁ。文化祭前で、早く指定の制服が届けばいいのに。  ブレザーの中にひとりだけ黒い学ランは思ったよりも目立ってしまう。  制服が届くまでは学ランじゃなくてカーディガンにしよう。確か寮に送った荷物の中に詰め込んでいたはずだ。  

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