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第8話
先頭を行くのは天使のように愛らしい台風の目。
その後ろに氷織。そして両脇に双子。165センチの氷織に対して、双子は頭ひとつ分背が高いせいで連行される宇宙人の気分だ。
「なぁなぁヒオリ!」と元気に話しかけてくる。喧しいわ、黙って歩け、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「あゆちゃんが話しかけてんだから返事しろよ」
「あゆちゃんと一緒にいられることに感謝しろよ」
あー、煩い。耳を塞いでそっぽを向けばぎゃーぎゃー騒ぎ出す。
せっかく整った容姿が子供っぽい性格で台無しだ。
ふとした疑問だが、この学園、顔の良い人間が多すぎやしないか。
生徒会役員はもちろんながら、食堂へ行けば右を見ても左を見てもモデルみたいな容姿の生徒ばかり。
早水はきゅるんとした可愛い系だし、外﨑も立花も容姿は整っている方だろう。
教室のある第一校舎から、生徒会室のある第四校舎までは歩くと十分はかかる距離だ。
背丈からてっきり年上だと思っていた双子が同学年だとわかった時点で敬語はやめた。
自分勝手で我が儘な彼らに敬語なんて使うのももったいなかった。
編入して数週間、理解したのは「容姿端麗な生徒がヒエラルキーの頂点にいる」ということだ。
天使の愛らしさを備えた容姿の愛優がどれだけ我が儘で授業を放棄しようとも、生徒のトップである生徒会役員が愛優にゾッコン(死語)のために教師も注意ができない現状。
愛優が来るたびに授業を中断せざるを得ない教師たちは早々に、生贄として氷織を捧げることにした。
先生に言われたら、氷織は拒否することができない。だって、先生は先生だ。氷織にとって、先生とは師であり、学ぶべき遺産であり、逆らってはいけない人だ。
ふんぞり返って自分たちが偉いと豪語する生徒会プラスアルファは頭がおかしいに違いない。
「……教室に帰りたいんだけど」
「えー!? 何でだよ! 一緒に行こうってば!?」
キンキン声が耳に響く。
被害者は氷織なのに、「愛優ちゃんに好かれてるからって調子乗りやがって」みたいな頭のおかしいちょっかいをここ最近かけられている。
調子に乗った覚えもなければ好かれているとも思えない。ただ、違う制服を纏った季節はずれの編入製が物珍しいだけだろう。
ちなみに、制服はあと半年もせずに進級するから、それに合わせて揃えようということになった。
平凡な一日から一歩遠ざかってしまった。
「――授業中に騒いでいるのはやはり君たちか。生徒会とはよほど暇人の集まりらしい」
どれだけ嫌味で棘の生えた声色だとしても、氷織にとっては救いの声だった。
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