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第10話
腕を引かれたまま、連れて来られたのは風紀室だ。
「あ、の……腕、」
「ああ、すまない。強く掴みすぎていたな」
パッと手を離されたところを柔く擦る。
木目調のローテーブルに、ソファが向かい合わせに置かれた応接セットの奥にデスクが並んだスペースがある。
二、三人生徒が座り、事務作業をしていた。
「委員長、おかえりなさい――ついに誘拐ですか?」
「人聞きの悪いことを言うな。神逆愛優に絡まれていたところを連れて来た」
「なるほど。天使君に絡まれるなんて災難ですねぇ」
「お茶でも出しましょう。座っててね」と促されるままにソファに腰掛ける。
にこにこと笑う風紀委員と、無表情の風紀委員長は対照的だ。
「神楽……木だったか?」
「坂です。神楽坂氷織です」
神楽木は親戚にある姓だ。神楽坂としての誇りを抱いている氷織にしてみれば、分家筋と間違われるのは屈辱である。
ついムッとして、強い口調になってしまった。
神より授けられし人には過ぎたる力が魔法である。
神楽坂は魔法を授けられた人間の子孫にあたり、多岐に渡って魔法使いの一族は続いている。
神楽坂を中心に神楽木、t――勘当された者の神逆。
「僕は風紀委員会の委員長を務める有明結鶴だ」
お茶を入れているのが副委員長だと言う。
「僕がタイミング良くあそこに現れたのは、君のクラスの風紀委員のおかげだ」
「俺のクラスメイト……」
「教室に戻ったら御礼を言うといい。あのままだと、生徒会室まで連れて行かれていただろうからな」
生徒会には良い印象はない。
顔が良く、成績も良く、家柄も良い。生徒の代表に選ばれた生徒で、秋に前生徒会と交代をしたばかりだと言う。
絶対的カリスマの生徒会長。
儚い麗しの副会長。
写し鏡の双子・会計と書記。
無口の美少年庶務。
まったくもって、微塵も興味がなかった。顔がわからなければ名前を覚える気もさらさらない。
生徒会長と庶務はわからないが、愛優に付きまとわれているのは氷織なのに、ちくちくと嫌味を言ってくるのだ。
そんなに自分以外にかまうのが嫌ならキチンとリードを持っていればいいじゃないか。
生徒会の話題に、眼鏡で顔半分隠れていても、明らかに機嫌の悪くなった氷織に副委員長は苦笑いだ。
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