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第11話
向かいのソファに腰掛けた風紀委員長――有明結鶴は手に持った分厚いファイルをテーブルの上に広げた。
「これは……」
「全親衛隊のデータファイルだ」
どうしてこれを、と疑問を口にする前に、風紀委員長は可能性の話をする。
いわく、神逆愛優の誘いを断ったことで親衛隊がなんらかのアクションを起こすだろう。
いわく、愛優に絡まれていることに嫉妬した生徒会役員が親衛隊をけしかけるだろう。
いわく、愛優を出しに、生徒会役員に近づこうとするなんて許せない、と親衛隊が制裁行為に躍り出るだろう。
……頭が痛い。
頭を抱えて重い溜め息を吐き出した氷織に同情する。
「つまり、どっちにしろ親衛隊が行動を起こすってことですか」
「まぁ、端的に言えば」
「……俺は、平和に平凡に学校生活をおくりたいだけなのに」
「天使君にターゲッティングされた時点で諦めたほうが良いですよ」
にこやかに笑う副委員長が憎い。
あの様子だと、さらにしつこく絡んでくるだろうことは予想がつく。
それによって、学校内が荒れるのは確実だ。
生徒による生徒への制裁行為は規律で禁じられている。だがしかし、いつになっても制裁行為は減らず、この今年度に関しては例年よりも数が増えている始末。
――夏前、神逆愛優が編入してから、全て可笑しくなったのだ。
副会長が愛優に惚れ込み、面白がった双子が瓜二つの外見をしながらも見分けられたと喜び、役職も授業も関係なく、時間を共にするようになった。
彼らの親衛隊は阿鼻叫喚である。愛優がなまじ顔が良いからなおさら辛酸を嘗めるしかない。
「つまり、俺は体のいい八つ当たり先だ、と」
愛優の行動には風紀委員会も困っているのだ、と言うが今一番困っているのは氷織だ。
平穏な明日すら危ぶまれている状況に具合が悪くなってきた。いっそ雪に埋もれてしまいたい。まだ雪は降っていないけど。
「早ければ明日からでも制裁行為が始まるだろう。僕たち風紀委員会もそれを観かしてるわけじゃない」
第一にひとりにならない。
第二に呼び出しには応じない。
第三に神逆愛優と関わらない。
とても簡単なようで、どれも難しかった。
教室にいる限りはクラスメイトもいるので大丈夫だろうが、移動授業や登下校となればそれぞれ部活や委員会活動がある。現に、下校は基本的にひとりで帰っている。
「教室では柚子原といるようにしろ」
「ユズハラ?」
誰だ、それ。
きょとん、と首を傾げた氷織に委員長たちも首を傾げた。
「クラスメイトじゃねーか」
ふてくされた声に、パコーンと後頭部を叩かれた。
前の席のいつも寝てる不良が般若を背負って後ろにいた。
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