4 / 32

母親と俺。

パンッ 乾いた音が部屋に響く。 頬にジンとした痛みを感じ、叩かれたのだと知った。 母を見ると眉根を寄せ、涙を浮かべている。 「当たり前でしょう!? 自分の息子があと何年も生きられないと聞かされて、平然としていられる親なんかいないわ!」 それを言われてハッとした。 「ごめん……」 それもそうだと思った。 自分の子供が自分より先に死ぬというのに 取り乱さずには、大半の親はいられないだろう。 この人も俺の母親なのだということを忘れてはいけなかった。 けれど俺が母の様子に驚くのは仕方ないことだろう。 何せ俺の親である。 物事にあまり感情を左右されない俺だが その俺よりも感情を表に出さないのが母だ。 特に泣き顔は見たことがない。 親父が女を作って出ていった時も、その後死んだと聞かされた時も この人は涙を一滴も溢さなかった。 そんな母が涙を流し、取り乱しているのに 驚かずにいられない。 「…壱人」 落ち着いてきたのか、涙を拭い静かに 母が俺を呼んだ。

ともだちにシェアしよう!