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母親と俺。
パンッ
乾いた音が部屋に響く。
頬にジンとした痛みを感じ、叩かれたのだと知った。
母を見ると眉根を寄せ、涙を浮かべている。
「当たり前でしょう!? 自分の息子があと何年も生きられないと聞かされて、平然としていられる親なんかいないわ!」
それを言われてハッとした。
「ごめん……」
それもそうだと思った。
自分の子供が自分より先に死ぬというのに
取り乱さずには、大半の親はいられないだろう。
この人も俺の母親なのだということを忘れてはいけなかった。
けれど俺が母の様子に驚くのは仕方ないことだろう。
何せ俺の親である。
物事にあまり感情を左右されない俺だが
その俺よりも感情を表に出さないのが母だ。
特に泣き顔は見たことがない。
親父が女を作って出ていった時も、その後死んだと聞かされた時も
この人は涙を一滴も溢さなかった。
そんな母が涙を流し、取り乱しているのに
驚かずにいられない。
「…壱人」
落ち着いてきたのか、涙を拭い静かに
母が俺を呼んだ。
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