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浮かんだのは。
今更だが、保科壱人(ホシナ カズト)
これが俺の名前である。
黙って母を見つめると静かに口を開いた。
「壱人、あんた他人事のように言うけど、何も思わないの?」
いつものようにあまり表情の変わらない顔で
というと誤解を生むが
眉間にシワを寄せ、先程まで取り乱していたとは思えない冷静さで聞いてきた。
俺は「何が?」とだけ答える。
何も思わない、というより
病気のことは、なってしまったものは仕方ないと受け入れたとも、実感がないとも言えた。
「何がって…! ……はぁ、後悔とかやりたい事とかないの? あんたまだ20代よ?」
俺の返答にまた怒りそうになったが俺を見て呆れたようだ。
その質問に少し考える。
後悔らしい後悔はない。
人間はいつか死ぬものだと思っているから
日頃から後悔をしないように生きている。
(例えば食べ物どちらを食べるとか小さいことは別だが)
けれど改めて人から聞かれると考えてしまう。
「……あるなら、整理しておきな」
母はそういって荷物を片付け、キッチンへと消えた。
後悔はない、と答えられたはずなのに
浮かんだのは、友人である男の顔だった。
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