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マイナスから⑦

相手が向かいに座った所で顔をあげる。 白衣を着た、男だ。 俺はこの男に見覚えがある。 いや、 「助かりましたよー、どこもいっぱいで」 今探している、その人だ。 「いちのせ……」 驚きのあまり出た声は情けなく けれど2人の間には嫌に大きく聞こえた。 あの頃から少し感じは変わったけれど つり目気味の目や人懐っこい雰囲気は変わらない。 「一ノ瀬翔太、だよな?」 俺は少し興奮気味に聞く。 一ノ瀬は目を瞬かせ、そして困った顔で 「そうだけど、えっと、どこかで会ったっけ?」 と言った。 急なことに思い出せないのかもしれない。 「保科だ。保科壱人。高校で同級だった」 顔は分からなくとも、名前で分かるだろう。 俺は期待した。 一ノ瀬は頬に指を当てながら考える素振りを見せる。 昔から変わらない癖に思わず頬が緩む。 「あ!」 一ノ瀬が声をあげ俺を見る。 思い出したのか。 「保科くんってあの保科くん? 眼鏡でガリ勉の…」 「いや、そっちじゃない」 俺が否定すると一ノ瀬は再び唸った。

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