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それは確かに。①
一ノ瀬との再会から数日が経ち
俺はまだ、あの日のショックから立ち直れずにいる。
何もやる気にならなくて
けれど何かしていないとどうにかなりそうで
仕事にだけは来ている。
病気だと分かる前かそれ以上の仕事量をこなしては
帰宅して寝る、という日々の繰り返し。
俺の体調を考慮し、調整されていた仕事量に
上司に無理を言って上乗せしてもらった。
止めろと言いたそうな上司だったが、俺の顔を見て
無理だけはするなよと苦笑して許可してくれた。
こうでもしないと一ノ瀬のことばかり考えてしまう。
女々しいにも程がある。
自分がこんなにも誰かに執着するとは知らなかった。
それくらい、一ノ瀬のことが好きで
悔いとして残ることなんだろう。
俺には時間がない。
あと何日かなど分かりはしないが
俺の近い将来には死しか待っていない。
こんなことで立ち止まっている場合ではない。
分かっている。
分かってはいるが、手段が見つからない。
一ノ瀬は俺を忘れている。
そんな人間相手にどうアプローチすればいい。
仕事に明け暮れた生活を送っていた俺は
恋愛の仕方を忘れてしまっていた。
そもそも就職してから恋愛をしている暇もなかったし、恋愛自体に興味もなかった。
モテなかった訳ではなかったが
それより友人たちといる方が良かった。
一ノ瀬が居てくれるだけで良かったんだ。
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