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それは確かに。②
仕事を詰め込むようになって数日。
俺は忘れていた。
いや、気づかなかった。
いつものように出勤し、いつものように仕事をこなす。
そろそろ昼か、と手元の時計を確認し
一服しようと席を立った。
急に周りの音がなくなって
まるで水中にいるかのような感じだ。
周りがスローモーションに見える。
あれ、みんなどうしたんだ……?
上司が何か言っている……。
ごめん柳さん、何も聞こえない………。
────────
気がついたら目の前は白い天井だった。
微かな薬品の匂いがする。
ぼやけた視界で辺りを見渡す。
左腕には管が着けられそこを辿れば点滴に繋がっている事に気づく。
嗚呼、病院か……。
どうやらあの時、倒れてしまったらしい。
とにかく身体を起こそうと試みたが思うように動かない。
ひどく身体に怠さを感じる。
人を呼ぼうかとナースコールに手を伸ばそうとしていると、病室に人が入ってきた。
「保科!」
慌てたように上司である柳さんが駆け寄る。
「目が覚めたんだな、大丈夫か? どっか痛いとかないか? 腹減ってないか? ん?」
いつも冷静な柳さんが取り乱してるのが可笑しくて、思わず吹き出す。
「ふはっ 柳さん落ち着いてくれよ」
俺が笑うと柳さんは目を丸くして静かに涙をながした。
「え、柳さん?」
「良かった……、保科、良かった……」
ポロポロと涙が流れるままに柳さんは続ける。
「お前急に倒れるから、このまま死んじまう、かと……」
「柳さん……」
普段は冷静に物事を判断し、いつでも笑っているこの人がこんなに取り乱し、泣いているなんて。
本当に心配をかけてしまったんだと反省した。
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