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初めまして。3

「あら? 貴方もしかして、いつかお見えになった…」 俺に声を掛けてきたのは 前に一ノ瀬を尋ねてここへ来た時、話し相手になってくれた事務のおばさん。 今日も雰囲気柔らかく、俺は安心した。 これは助かったかもしれない。 「確か一ノ瀬翔太先生のお友達よね?」 「あ、はい。その節はどうも」 俺と守衛の様子をみて状況を察したのか こちらに近づいてくる。 「守衛さん、この方通してくださる? 一ノ瀬翔太先生の来客なのよ」 「え? いや、しかし」 守衛は納得していない様子で言い淀む。 「いいじゃないの。部外者が入ってはいけないという決まりはないし、近所の方だって食堂を利用したりするわ」 おばさんが笑顔を崩さずにそう言うと守衛は渋々といった感じで俺を通してくれた。 「そうならそうと言ってくれれば」と去り際に言われた。 挙動不審だった俺も悪いのだし、お互い様だろう。 しかし、何はともあれ事務のおばさんのおかげで 俺は無事、大学構内へ入ることができた。 「あの、ありがとうございました」 「いいえ。 それで? 今日はどうしてあんなことになっていたの?」 「あー、それが………」 俺は先程の出来事をおばさんに説明した。 するとおばさんは一瞬きょとんとした後笑いだした。 「まあ、ふふふ、そうだったのね、ふふ、おかしいわぁ」 おっとりと微笑うものだから、つられて俺まで笑ってしまった。 「でもそうね、堂々としていればこんな事にはならなかったわね。怪しく校門前をウロウロしていたら、教職員でも止められると思うわ」 私が通りかかって良かったわね おばさんはそうにこやかに言った。 確かに、あれは俺でも止めるよな。 「ところで、今日は何か用事があったのでしょう? また翔太くんかしら?」 おばさんの言葉に俺はハッとする。 そうだ目的を忘れるところだった。 「そうでした。そうなんです、俺、一ノ瀬に会いに来て……」 用件を話すとおばさんがどこか残念そうな顔になる。 「そうなのね。翔太くんならきっと今講義中だと思うけど……」 「待っている間お茶でも、と思ったけれど。今日は駄目なのよ、ちょっと忙しくて。さっきはおつかいの帰りだったのよ」 ごめんなさいね、とおばさんは申し訳なさそうに言う。 そう言えば、紙袋を持っている。 だからこの時間にあそこを通ったのか。 なるほど、今日の俺は運がいいらしい。 「いえ、俺の方こそ、足止めしてしまって。一ノ瀬のことならカフェあたりで待ちますし、大丈夫です。さっきはありがとうございました」 俺たちは互いに会釈をして食堂付近でわかれた。 本当に人当たりの良い人だな。 あの人と話したことで背中を押されたような気がした。

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