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それでも。3

どのくらい経っただろう。 小説を半分ほど読み進めた頃、コーヒーが空になったことに気づいた。 追加を頼もうと席を立とうとすると 同時にカフェのお兄さんがこちらに気づいた。 「そろそろ空っぽかなーって。新しいのお持ちしました」 トレーにコーヒーを乗せ、俺のテーブルに来た。 「よく分かったな。ありがとう」 「まぁ、よく来てくれてるんで。 あと、これ良かったらどうぞ」 そう言ってコーヒーと一緒に、シフォンケーキが置かれる。 「良いのか? 注文してないのに……」 「良いんスよ、今度店で出す用の試作なんで」 彼は人好きするような笑顔でそう言うと俺の前に座った。 「なんで、感想聞かせてください」 ……正直、甘いものは得意ではないのだが ニコニコと笑う彼を前に断るわけにもいかない。 よく利用しているくせに毎度決まったものしか頼まず、何時間も居座らせてもらっていることもあり 俺はその礼も兼ねて試食した。 「……美味い」 甘いものが苦手な俺でも一切れは平気で食べられてしまう、程よい甘さ。 紅茶が使われていて、鼻に抜ける香りが良い。 添えられたクリームを付けても、しつこくなくコーヒーとの相性も悪くない。 食感はフワフワでプルプル。 「美味しいよ、これは売れるんじゃないか」 正直に感想を伝えると、彼は嬉しそうに笑っていた。 「あざっす! へへ、お兄さんにそう言って貰えて嬉しいっす!」 食べた感想を述べただけで、こんなに喜んで貰えるとは。 良いことをした気分だ。 それから少し一ノ瀬が来るまでの間、彼と話していた。

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