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それでも。6

少しの気まずさが流れる中、俺と一ノ瀬は大学を後にし、今は本屋にいた。 どうやら大学で使う資料を探しに来たらしい。 その間、俺は小説のコーナーでも見ていようか。 ちょうど気になる本もあるし、探してあれば買っていこう。 本屋はいつ来てもいいものだ。 用事がなくても立ち寄ってしまうし、目的のものを探していたのに気づけば予定外のものも買っていることもある。 何より、俺は本屋のあの独特な雰囲気が好きだ。 来るだけで気分転換になるというか、童心に帰る気がする。 最近はカフェが併設されている所も少なくなく、便利になったものだなと思う。 自分の用事が終わった俺は一ノ瀬を探すためにウロウロとすることにする。 大きめな本屋なだけあって見つけるのに苦労しそうだ。 目当ての本は見つかったのだろうか。 少しウロウロしていると、一ノ瀬を見つけた。 ただ、予想だにしない所で。 「おい、一ノ瀬、大丈夫か……?」 「ん、あ、保科 んっと……」 一ノ瀬は脚立に登ってさらに手を伸ばしていた。 ここの本屋は棚が高く、高所の本は脚立を使わなくてはならない。 しかし、その脚立もそんなに大きなものではないため、女性や背の低い人は一番高い棚には届かないだろう。 一ノ瀬はそこまで背が高くない。 高校入学の頃はそんなに変わらなかったはずだが、むしろ俺の方が小さかったくらいだが、すぐに俺の身長の方が大きくなった。 一ノ瀬は170あるかないかだろうか。 俺は、どうしたのか180は超えている。 そんな一ノ瀬が欲しい本は一番高い棚にあるのか 脚立に乗っても届かないようで懸命に手を伸ばしている。 「あ、と少し…っ」 そう少し背伸びをした時だった。 「うわっ」 「一ノ瀬!」 脚立がグラつき、一ノ瀬がバランスを崩した。 俺は考えるより先に身体が動いた。 ドサドサッ ガシャンッ 数冊の本と共に一ノ瀬が落ちてきた。 「ったた…」 「大丈夫か、一ノ瀬」 「え! わぁ!ごめん!」 間に合って良かった。 一ノ瀬を抱きとめることができた。 さすがに体勢を崩して倒れてしまったが。 「ごめん、保科!すぐ退くから!」 俺を下敷きにしたことに気づいた一ノ瀬が慌てて退こうとする。 俺としても早く退いてくれると助かる。 好きな奴が上に乗っていて、平気でいられるわけがない。 そう簡単に理性を崩すことはないが、長くはもたないだろう。 一ノ瀬が退こうと膝を立てた時、今度は近くに落ちた本につまづいた。 あ、と思った時には遅かった。 ちゅ、 「……」 「…………」 俺の唇と一ノ瀬の唇が、ぶつかった。 一瞬、時が止まった。

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