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それでも。9

一ノ瀬の話を聞いていると、彼女のことが大切なことが伝わってくる。 正直、胸が痛い。 が、これも親友であることの務めだ。 「それはお前、もう少し話す時間を作らないとだろ」 「そうなんだけどさ〜」 うーん、と唸って頬杖をつく姿が可愛い。 酔っているんだろう、滑舌が幼い。 「というより、俺と会ってる時間を彼女との時間にしたらいいんじゃないか?」 彼女がいる人間をそんなに拘束していいわけがない。 彼女からしたら、俺は邪魔な存在だろう。 いくら親友といえど、恋人をとられていい気はしない筈だ。 彼女がどんな子なのかは分からないが、結婚を、と考えている相手だ。 俺が原因で別れてしまっては申し訳ない。 擦れ違っている、ということは俺と会っている時間分、彼女との時間が減っているという事だ。 「うーん、でも僕、保科と遊ぶの楽しいし。折角、高校以来に再会したし、今の時間も大切にしたいよ。それに僕、まだ保科のこと思い出せてないし! 彼女のことは大切だけど、保科のことも大切だよ」 「っ」 ふにゃふにゃしていた癖に急に真剣になるものだから、思わずドキリとする。 俺のことをそんな風に思っていたのか。 嬉しいことだが、少し複雑だ。 一ノ瀬がじーっと見つめてくる。 「そう言ってもらえて嬉しいが、俺にばかり構っていると彼女が逃げるぞ?」 「う…。でも! 嫌だよ、また保科と会えなくなるのは……。僕、楽しいんだ、保科といるの」 冗談めかして言うと、一ノ瀬がふわりと笑った。 酒の所為だと解ってはいるが、赤らんだ頬と潤んだ瞳でその顔は駄目だろう。 俺でなければ勘違いされてもおかしくない。 「……っ、そうか」 俺は己の欲望を殴るべく、誤魔化すように酒をあおった。 一ノ瀬は満足したのかニコニコとしている。 全くコイツは。 人の気も知らんで。

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