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第4話

「悪ぃ……情けねえところを見せた」  ユリウスに抱き着いて、泣くこと数分。  抱きしめられた安堵感よりも、羞恥心の方が勝ってしまう。  10代の頃ならともかく、俺ももう25だしな。特にユリウスの見た目が高校生ということもあり……こう、年下に泣きついているという、構図的な恥ずかしさに負けた。 「そんなことない。伸太郎が強い男であることは、俺が一番知っている」  と、ユリウスは俺の頭を撫でる。  優しげな眼差しが、何とも居心地悪い。  どうにも俺は人に甘えることに慣れていない。両親が亡くなってからは、ずっと1人で気を張って生きて来たということもあるだろう。  それでもテルディオにいた頃は、少しずつこの完全無欠な勇者様にほだされてしまい――つい、頼ってしまうこともあった。勇者だった頃のこいつは、それだけ頼りがいのある男だったのだ。精悍な顔つき。すらりとしたシルエットながら必要なところにしっかりと筋肉がついた体。剣を握る様は勇ましかった。凛とした佇まいには、敵ですら見惚れることもあったくらいだ。  だが――俺は改めて、今のユリウスの姿を見る。  今のこいつは「頼りたくなる」というよりは、「守ってあげたくなる」という表現の方がしっくりくる。成長途中なことがわかる背丈。幼さの残る頬。腕も腰回りもすっかり細くなっちまった。  テルディオにいた頃は、楽々と横抱きにされたことも何度かあったが(好きでされてたわけじゃねえぞ!? 俺がケガをしていてどうしても動けない時だけ……つまり、不可抗力!)、今のこいつじゃ俺を持ち上げるなんて無理臭い。むしろ、俺が抱っこできそうなくらいだ。  そんな線の細い美少年に抱き着いて、「よしよし」されるなんて恥ずかしすぎるだろ!?  だから、俺はさっさとユリウスから離れようとしたのだが―― 「おい……っ」  強い力で引き戻されて、再び、腕の中。  俺は抗議の声を上げるが、それは自分でも弱々しくて説得力ゼロなことがわかる声だった。 「離れたくない」  真摯にささやかれ、俺は息を呑んだ。  次の瞬間にはもう口をふさがれている。  始めは優しく合わせるだけ。それだけでも久しぶりの感触が心地よくて、俺はほっと胸の内で息を吐いた。ちゅ、ちゅ、と何度か口づけられてから、深いキスへと移る。敏感な粘膜を舌で刺激され、背中がぴくりと跳ねた。  何だこれ……。  すげー気持ちいい。 「んん……♡」  妙な声が唇の間から漏れてしまう。頭の中がじーんと痺れて、思考に靄がかかっていく。蒸し風呂の中にいるみたいに熱い。  ユリウスはもともとキスも上手かったが……こんなに腰砕けになったのは初めてだ。体にまったく力が入らん。何でだ? いくら久しぶりだからといっても、こんなにくにゃくにゃになるか?  俺が陶然となっていると、ユリウスが俺の膝裏と背中に手を回す。 「場所を変えよう」  そして、軽々と俺の身体を持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこ――って、何でだよ!? 「いやいや、おかしい! その細っこい体のどこにそんな力があるんだよ!」 「これか? 転生する時にもらったスキルのおかげだ」 「スキルぅ?」  素っ頓狂な声を出してしまってから――腑に落ちた。 「あー。はいはい。スキルね。転生ものにはつきものだよな。で、お前はどういうスキルもらったの? オーソドックスに【筋力UP】とか?」 「例えばこれは、スキル【君だけの騎士】。パートナーをお姫様抱っこする間のみ、筋力値にボーナスを得る」 「使い方が限定的すぎねえ!?」 「『伸太郎の役に立てる力が欲しい』と願ったら変な物ばかりもらってしまって……ちなみに、スキルの名前と効果はすべて女神が考えたらしい」 「女神様!? 何してんの!?」  そんな口にするだけで恥ずかしすぎるスキル名をつけるなよ!!  女神様……絶対、楽しんでるだろ。  ユリウスが俺をベッドの上に降ろす。危機感が沸いてきて、俺は身を引いた。 「いや……待て……ユリウス。俺の役に立つ力って……? 具体的には、その……?」 「ん?」 「あのー。まさかとは思いますが……? それって、|そーゆースキル(・・・・・・・)ってこと……?」 「そういうとは? 何を想像したんだ、伸太郎」  にこにこと無駄にお綺麗な笑顔で、ユリウスが迫って来る。 「てめー、絶対わかってて言ってるだろ!?」 「すまない……。伸太郎の反応が新鮮で、初めての時のことを思い出した」 「だー、くっそ、10代の頃の! 小っ恥ずかし黒歴史! 掘り起こすんじゃねえ!」  テルディオでの青臭い思い出が蘇り――俺は赤面した。あの頃は若かったんだよ!  羞恥に悶えている間に、ユリウスが俺に乗り上げる。あっという間にマウントポジションを確保されてしまった。  そして、口をふさがれる。やや強引に口内を侵されたが、それすらも気持ちいい。また全身の熱が集まって来て、頭がぼんやりとした。  熱い……気持ちよすぎて、痛いくらいに下半身が張り詰めてくるのがわかる。 「ふぁ……♡」  ようやく唇を解放されると、自分のものとは思えないくらいの甘い声が漏れる。俺はハッとして、口元を抑えた。 「……すまん。何か変な声出た」 「伸太郎はかわいいな。もっと聞かせてほしい」 「言っとくが、見た目だけなら今のお前の方が数万倍かわいいからな?」  輪郭はまだ幼い部分を残した高校生。はるか年下の美少年に押し倒されているという事実が、より羞恥心を煽る。  ユリウスは身を屈めて、今度は俺の首筋に唇を当ててくる。皮膚の薄い所をちゅ、っと吸い上げられて、体がびくりと震えた。 「あ♡ んっ、……くっ♡」  声が抑えきれない。自分で聞くのは堪えがたいほどの甘い声――いや、絶対におかしい! 俺は10代の頃だってこんなに甘い声は出さなかったぞ!? 「待て! 何か変だ!」  俺は慌ててユリウスの胸を押しやった。 「変なスキル持ってるだろ、お前!」 「気付いたか」  と、悪戯がばれた子供のように、ユリウスは目を光らせる。 「【強制・♡喘ぎ】。効果は……」 「いや、説明はいい。何となくわかった」  女神様……スキル名がそのまんますぎます。つーか、ろくなこと考え付かねーな、異世界の神。【君だけの騎士】のネーミングセンスの方がまだマシなんだが?  迫ってこようとするユリウスを、俺は必死で押しとどめる。まさにベッド上での攻防。 「ありえねえ……! 絶対に嫌だからな!? 俺が安っぽい官能小説のごとく、だから、その……つまり……何とか喘ぎ♡ するなんて♡ アホ! 触んな!」 「伸太郎、そんな声も出せたんだな。すごくかわいい。興奮する」 「く、このっ♡」  すでにマウントポジションをとられてしまっているので、俺の抵抗なんて焼け石に水。ユリウスに体中を愛撫され、びくびくと震える。  高鳴る鼓動の音が耳元でうるさく響いている。熱が全身を回って、息がすでに上がっていた。 「まずい……♡ これ以上は、まずいって……ッ♡ はぁ……♡」 「伸太郎の目、とろけてきた。かわいいな」 「かわいくないって♡ 言ってるだろッ♡」  ぱちぱちと手際よくワイシャツのボタンが外されていく。

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