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第3話 秘密の土曜日・11
*
「ん、……」
「おはよう、炎樽」
「あれ、天和……。何でここに……?」
「覚えてねえのか?」
「んん……」
午後八時を過ぎたところで、ようやく炎樽が目を覚ました。ゆっくりとソファから身を起して俺の顔を見つめ、まだ夢うつつなのか訳が分からないといった表情をしている。
「……覚えてない……何があったんだ?」
元の大きさに戻ったマカロがくっく、と笑いを堪えているのを見て、俺はその胸倉を掴んだ。
「どういうことだ、てめぇ」
「わっ、わ、怒るなって! あれは効果が切れると眠くなって、起きたら記憶から消えるっていうシステムなんだ」
「じゃあ俺が昼間お前にかけたパシリの催眠も覚えてないのか?」
「天和、俺にそんなことさせたのか? 夢魔をパシリに使うなよ、全く……」
掴んだ胸倉を放して溜息をつくと、更にマカロが俺を煽った。
「合コンで使えるグッズだけど、寝ちゃった子はお持ち帰りOKっていうサインなんだ。催眠にかかった訳だから本人もその気があるってことだし、お持ち帰りして目が覚めた後で改めて告白すれば、これでカップル成立!」
「……馬鹿なんじゃねえのか、夢魔ってのは。そいつら一発ずつ殴らせろ」
「わ、悪口言うなっ!」
言い合う俺とマカロを眺めていた炎樽が、「喧嘩すんなよ」と自身にかけられたブランケットを捲った、その瞬間。
「なあぁぁっ!」
「わ、どうしたの炎樽」
「な、……何で俺、フルチンなんだっ……?」
すぐさまブランケットでそこを隠し、炎樽が俺達を睨みつけた。ぎりぎりと歯軋りをして顔を真っ赤にさせ、大激怒のカウントダウンが始まっている。
「お、俺何も知らねえよっ。天和の家言っておにぎり食ってから記憶ないし……」
「……じゃあ、お前か。天和」
「俺は、こいつにもらった夢魔の催眠水晶をお前に試しただけだ」
「催眠?」
その言葉に反応した炎樽の目が、スッと細くなる。
「夢魔の催眠術? それを俺にかけたってことか? 何を、どんな風に?」
「お前が俺のこと好きで好きで堪らねえから、俺にエロいことされたがるっていう催眠」
「っ……!」
ソファからそのままダイブして俺に襲い掛かってきた炎樽を、難なく受け止め抱きしめる。
愛しの炎樽。
勝手ながら俺は今、お前を絶対に嫁にもらうと決めた。
「酒も煙草もやめるからな。将来のためにバイトもするし、卒業したら就職もする」
「……なっ、何言ってんだよっ? 訳分かんねっ……」
「お前に認められるくらい良い男になる。何があっても、生涯お前を守る」
「………」
俺の胸に顔を埋めて唇を噛む炎樽。口に手を当ててニヤつくマカロ。俺はその柔らかい髪を思い切り撫でながら、「ついて来てくれるか」と優しく囁いた。
「……あ、ぁ……」
「ん?」
「阿呆ーッ!」
勢い良く胸元から顔を上げた炎樽の頭頂部が、見事に俺の顎へと炸裂した。
「っ……、……!」
「訳分かんないっての! 勝手に暴走するなっ!」
炎樽が下半身裸のまま俺の上に馬乗りになり、酷い罵声を浴びせている。その辛辣な言葉はおろか腹に感じる重みさえも愛しく、またそんな中での騎乗位アングルが堪らなく興奮する。
「炎樽」
「何だよっ!」
「めちゃくちゃセックスしてえ」
「っ……!」
そうして振り上げられた拳を左頬に受ける羽目にはなったが、俺としてはこれまでの高校生活の中で最高に充実した土曜を過ごすことができた。
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