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第6話 夢魔たちの休日・2

「……呆れた。何で後から来た俺の方が種集め捗ってんだよ?」  土曜日の昼過ぎ。俺の契約者である炎樽が通う学校近くにアパートを借りたサバラが、心底見下したような目で俺を見て言った。今日は人間達にとって安息日前の休日。学校は行かなくていいらしく、炎樽は朝から天和に連れ出され買い物に出かけている。 「サバラが集めてるのは商売用の種だろ。俺は自然な形で生まれた種を狙ってるんだよ」 「種は種だ。俺達の仕事は質より量を求められてるんだぞ」  昔からいけ好かなかった幼馴染のサバラは俺と違って頭が良く、こちらの世界では先生と呼ばれる仕事に就いている。もちろん仮の姿だが、その方が何かと動きやすいと計算して予め決めていたのだそうだ。  サバラは人間として大した仕事もしていない癖に、何故か学校から金をもらっている。その金で風俗へ出向き着々と種を集めている。悔しいが見た目が良いせいで、料金以上の種をもらえる時もあるらしい。それどころか店に行かず金も払わずに済む時もあるのだとか。 「要領よくやらないから、お前は落ちこぼれなんだ」 「……だって、夢魔が風俗通いなんて笑い話じゃねえか」 「買い付け先、と考えればいい。能力を使わずして簡単に種が得られるに越したことはないだろ」  確かにサバラの言う通り、種は種だ。もちろん質が良い方が高く売れるしその分希少な薬も作れるが、一つの良質な種よりも、百の平均的な種を持ち帰った方が断然喜ばれるし、優秀と言われて褒めてもらえる。 「人間の夢に侵入してセックスするなんてやり方は古いぜ、マカロ。面倒だし魔力も消耗するし。だったら定期的に会いに行って確実に種をもらえる方法のが楽だし効率的だろう」 「分かってるけど……」  俺と契約をした炎樽は、夢魔ならその匂いを嗅げば一発で分かるほどの良質な種を持っている。俺は初め、彼の傍にいれば働かずとも極上の種を毎日入れ食い状態にできると思っていた。  だけど現代の人間にしては、そして思春期という特殊な成長過程の中にいる男にしては、炎樽は全くセックスをしないのだ。それどころかあれだけ男を惹き付けているにもかかわらず、まだ一度も男の精を受け入れたことがないのだという。 「確かに炎樽くんが良質な種を持っているのは俺も認めるが、それが取れないんじゃ意味がないだろ。そんなに彼の種が欲しいなら、さっさとあの天和とかいうクソッタレ腕力馬鹿をけしかけて襲わせるんだな」 「……そんなことしたら、炎樽に怒られるし嫌われる……」 「はぁ……心底呆れるよ、お前には」  人間は欲に塗れたどうしようもなく下等な存在だと聞いていたが、俺が知る人間──炎樽と天和は、そこまで言うほど嫌な奴じゃない。おにぎりも食わせてくれるし、俺を頼ってくれるし、優しい心も持っている。  子供の姿になった俺を抱きしめてくれる炎樽はあったかいし、天和が炎樽を守りたいという気持ちには胸を揺さぶられる。人間だって、どうしようもない奴ばかりじゃない。

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