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第6話 夢魔たちの休日・3

「とにかくお前は人間の種の味を覚えろ。何ならサキュバスの体になってその辺の男にでも抱かれてこい」 「お、俺まだサキュバスに変身できる能力ねえもん! ……それに、人間の種の味なら知ってる」 「へえ、いつ知ったんだ」  前に一度だけ、炎樽の精を直飲みさせてもらったことがある。あの時は口から飲んだだけで酔っ払ったみたいに気分が高まって、しばらくふらふらになったっけ。もしもあれだけの極上な種を定期的に取ることができれば、俺だって落ちこぼれのレッテルを剥がしてもらえるのに。 「口から飲んだだけかよ!」  サバラがソファに倒れ込んで大笑いしている。俺は恥ずかしさに縮こまり、赤面しながら口を尖らせた。 「マカロ、もしかしてお前まだ童貞か? 処女なのは知ってるが、そっちの方も未経験なのか?」 「……悪いか」 「どっ、童貞のインキュバスとか!」  ますます笑われ、俺もますます顔が赤くなる。  ひとしきり笑った後、目元の涙を拭いながらサバラが言った。 「なるほど。落ちこぼれとかの問題ではなく、お前の場合はまずスタート地点が他とは違う場所にあったのか」  勝手に納得しているサバラを尻目に、俺はテーブルに置かれたまま冷めてしまった紅茶を飲み干した。  俺だってセックスしてみたいし、するチャンスだってあった。だけどこの目の前の男──サバラがことごとく俺のフラグをへし折って俺から恋人を奪って行ったのだ。本人はその多くを忘れているが、やられた方は一生忘れない。チョコちゃんもタフィーちゃんもスフレちゃんも、全部全部こいつがかっさらって行ったんだ。受け身の相手が優れた個体を選ぶのは仕方がないだろう、と言って。 「よし。マカロ、俺がお前に人間の味を教えてやろう」 「い、いいって別に! それくらい俺一人で……」 「出来てないから、気に食わない俺にこんな相談しに来たんだろうが」 「う」  サバラがソファを降りてクローゼットに向かった。開いた中には洒落た服や帽子がたくさん入っていて、そのどれもこれもがカッコいい。どうしてこんなに金持ちなんだ、こいつは。 「マカロ、お前はこれを着ろ」  言われるまま受け取ったスーツ一式。いつも同じ黒い服の俺にとって、スーツなんて初めてだ。 「似合うか? ホストが着るやつみたいだけど……」 「……まあ、今までの服よりはましだろ」  腕組みをして俺の全身をチェックするサバラもスーツに着替えている。悔しいが流石に似合っていて、かつての俺の恋人達がこいつに靡いてしまったのも仕方ないと思えてくる。 「その頭は何とかならないのか。ドピンクのぼさぼさ癖っ毛野郎」 「う、生まれつきだし!」  サバラが俺を鏡の前に座らせ、後ろから櫛でとかし始めた。もつれた髪が櫛に絡んで痛かったけれど、するすると櫛が通るようになってからは頭皮をマッサージされているみたいに気持ち良くなって、何だか眠くなってしまう。 「少しはまともになったか」  整えてもらった髪に仕上げのスプレーを振ってから、サバラが「五千円」と言った。 「金取るのかよ?」 「同族価格だ」  無一文なので取り敢えずツケにしてもらい、俺は玄関へ向かうサバラの後を追って外に出た。

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