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第6話 夢魔たちの休日・4
ミクロ近くまで小さくなり、アパートから飛んで行った先は──太陽に照らされまだ眠たげにしている真っ昼間の歓楽街だった。看板がひっこめられた店、電飾の消えた店、まだ従業員も客も誰もいない店。そんな中で古びた雑居ビルの裏側に降り立った俺は、サバラの後ろを恐々ついて行きながら問いかけた。
「一体、どこに行くっていうんだよ?」
「俺の行きつけだ」
「でも、どの店も閉まってるぞ」
「大っぴらに開店アピールしてない店だからな」
淡々と俺の質問に答えながら、サバラが慣れたように街の中を進んで行く。まだ収集時間になっていないのかゴミ袋が大量に道端に置いてあって、可愛い一羽のカラスがそれをつついていた。
「ここだ」
何の変哲もない一軒のビルに入り、エントランスから地下へ続く階段を下りて行く。下りた先には重厚な扉があり、扉の前に出ている立て看板には「シークレット・ラビッツ」と描かれてあった。
「ウサギの店?」
「ああ、可愛いウサギがいっぱいいる」
中に入って驚いた。寂れた外見のビルとは正反対に、フロア内はシャンデリアやグラスや高そうなテーブルにソファが並んだ、煌びやかな世界になっている。
どっ、どっ、と響く激しい音楽がぎりぎり会話の邪魔にならない程度の音量でかかっていて、壁にはめ込まれたガラスの向こうでは美しい人間の男が裸で踊っていた。
「な、何だここ……」
まず匂いで酔っ払いそうだ。あちこちに精の匂いが広がり、中には俺の求める極上のそれも混ざっているらしい。きょろきょろしていると、サバラの元へ従業員がやってきて言った。
「いらっしゃいませ、砂原様。本日はお連れ様もご一緒ですか」
「ああ、こいつは初めてだから色々教えてやってくれ」
「かしこまりました」
黒服の男が俺の方へ顔を向け笑った。同時にサバラは俺を置いて、どんどん店内奥へ進んで行ってしまう。
「いらっしゃいませ、ようこそシークレット・ラビッツへ。お好きなウサギをお選び下さい」
「え、ええと……?」
戸惑う俺に、男が入口右側の壁を指して言った。
「こちらからお好みのボーイをお選び頂けます。必要でしたら全員のプロフィールをご説明しますので、ご遠慮なく」
夢魔の町でも歩いていると服屋があって、ショーウィンドウの向こうではイケメンモデルのマネキンが最新ファッションを身にまとって並べられているが……それの人間バージョンが、そこにはあった。
ガラスの向こうでは文句なしに「S級」と呼べる見た目の若い男が何人もいて、それぞれ服には番号が付いていた。俺を見て誘うような笑みを浮かべる子もいれば、腕組みをして仏頂面をしている子もいる。
この中から一人を選べということか。
「えっと、それじゃあ……二番の子」
「かしこまりました」
二番の子を選んだのは、俺の初恋相手に似ていたからだ。スフレちゃん……サバラに取られた後のことは知らないけれど、元気にしてるかな。
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