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第6話 夢魔たちの休日・7
「──あぁっ! マカロさん、す、すごい……!」
雪那がみるみる俺の口の中で硬くなっていく。先端を吸えば甘い蜜がとろりと溢れて、舌の上に何とも言えない刺激が走る。久々に味覚で感じる精は美味かった。合意をもらったということは、腹いっぱいになるまで吸い尽くしても構わないということだ。
「ふあ、ぁっ……マカロ、さん……、吸い付き、すごいっ……」
テーブルに両手のひらをつき、完全に上を向いた雪那のそれを更に吸い上げる。まるで雪那の肉棒をストロー代わりにして体液を吸っているみたいだ。ちらりと盗み見れば、雪那の目はぐるぐるのハートマークになっていた。笑う形に開いた口からは涎も垂れている。夢魔の口淫を受けるのは初めてだろうから仕方ないとはいえ、もう少し彼には余裕を持ったままの美人さんでいて欲しかったなと思う。
「あぁんっ──マカロ様、イッちゃうぅ!」
ひと際強く吸い上げると、腰を痙攣させた雪那がそのまま俺の口の中に種をぶちまけた。ゆっくりと味わうように、少しずつ飲み込んで行く。まだまだ溢れてくる熱くて濃厚な種。最後の一滴まで絞るように啜っていると、雪那の背後からサバラが俺を見ていて目が合った。
──楽しんでいるようで何より。さっさと童貞捨てろ。
サバラの顔は、俺にそう言っていた。
「ふ、あぁ……気持ちよか、った……」
「ご馳走様、雪那」
確かに種は美味かったし久々にコッチの腹も満たされたけれど、これじゃあやっぱり自分で飲んでるだけで、種を手に入れたことにはならない。どうにかしてセックスに持って行き、飲まずに済むような形で保存しなければ。
俺達が欲しい種は、セックスによって吐き出される種だ。口淫や手淫で射精させても、その時の自分は満たされるが商品としての価値はない。「馬鹿野郎、出るモンは同じだろうがぃ」と若者に自慰をさせてその種を格安で売る闇の仲介屋もあったけれど、不思議なことにやっぱりその種で作られた薬は効果が弱く、結局商売は続かずに店じまいをしていた。
「ねえ、マカロさん。別室でもっと楽しもうよ」
「え……」
「フェラだけでそのテクニックなら、セックスはもっと凄いんでしょ?」
「あ、う……」
またとないチャンスなのに、俺は動揺していた。
「マカロさんてば」
頭の中にあったのは、炎樽を抱きしめる天和の姿だ。
大好きで大好きで、他の全てを捨ててでも炎樽だけを愛すと誓った天和。出会った頃は知らない精の匂いをぷんぷんさせていたのに、最近はこれっぽっちも匂わない。炎樽の気持ちが自分に向くまで、本能を殺して性欲を堪えている天和。彼は俺の目から見てもカッコいい男だった。
「マカロさん、早く。待ちきれない……」
天和みたいに強い男になるためには、ここで欲に流されたら駄目だ。仕事だって分かっていても、本能ではセックスしたくて堪らなくても、俺は……
「お、おれは! ……おれはだめ!」
「えっ? マ、マカロさんっ?」
「馬鹿野郎、マカロッ……!」
動揺し過ぎてどうしたら良いのか分からなくて、パニックに陥った俺は瞬時にして子供の姿に退化してしまった。
「う、うあ……」
音楽だけを置き去りに、フロア内が静まり返る。
「うわあぁ──んっ!」
その空気に耐えられなくて、俺は泣きながらその場を逃げ出した。
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