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第6話 夢魔たちの休日・8
「うわああぁ、ほた、ほたるううぅぅ!」
「わ、どうしたんだよマカ!」
涙と鼻水をまき散らしながら飛んで帰ってきた俺は、炎樽の胸に顔を埋めて更に泣きじゃくった。サバラに借りたスーツはあの場で全部脱げてしまって、今の俺は裸だ。
「不細工なツラだな。追剥ぎにでも遭ったのかよ?」
「たっ、た、たかともおぉぉ!」
お茶でもしようと思っていたのか、ダイニングテーブルにはお菓子や二人分のジュースが乗っていた。
「はいはい、落ち着け」
お母さんみたいに優しく、炎樽が抱きしめた俺の背中をぽんぽんと撫でる。俺はしゃくり上げながら炎樽を見上げ、「戻って来れた」という安心感にホッとしてまた泣いてしまった。
そんな俺の翼を引っ張って、天和が眉根を寄せる。
「おい、チビ。いい加減離れろよ」
「まあまあ、いいじゃん別に。子供に冷たい奴は嫌われるぞ」
「コイツは子供じゃねえだろ、元々は」
「……で、マカ。何があった? サバラとまた喧嘩したのか?」
俺は無言で首を横に振り、炎樽の胸に顔を埋めた。
「怖くないから言ってみろって。意地悪されたんなら俺がちゃんと言ってやるしさ」
「……あ、あのなほたる。おれ、サバラに言われて、カッコいい服着て……」
これまでの経緯を説明すると、天和がテーブルに拳を叩きつけて激昂した。
「やっぱりガキじゃねえだろうが! こちとら禁欲生活記録更新中だってのに、てめぇは真っ昼間から風俗ってどういうことだコラァ!」
「ひいぃっ……!」
「いきなり怒るなってば、天和。そんな自分の事情言ったって仕方ねえだろ。それにマカは性欲云々じゃなくて、夢魔としてそういうのも必要だろうし……」
「据え膳放り出して泣きながら帰って来たんだろうがよ。情けねえ男だな」
天和の言葉がグサグサと突き刺さる。
「そんなことないって、むしろ俺はちょっと安心してるし。意外にマカが純粋だったって知れて嬉しいしさ」
炎樽の言葉がふわふわと俺を撫でる。
「純粋じゃねえ、ビビリなだけだ」
「そりゃ天和は、据え膳は残さず全部食う主義なんだろうけど」
「今は食ってねえ! ていうか食わねえ!」
「け、けんかしないで!」
鼻水を啜りながら訴えると、「取り敢えず」と炎樽がテーブルの上にあったイチゴミルクのストローを俺に咥えさせてくれた。
「マカが無事に戻って来れて良かった。サバラも意地悪でやったことじゃないみたいだし、いい勉強にはなっただろ」
「うん……」
「ていうか、思ったんだけどよ……」
天和が俺のほっぺたを指で押して、言った。
「お前、タチよりネコの方が性に合ってんじゃねえの」
「……へ?」
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