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第7話 体育祭バーニング!・2

「俺が出るのは騎馬戦とリレーと、ビーチフラッグだってよ」 「俺は百メートル走と、リレーと、……仮装レース」  翌日の放課後、寄り道したファミレスで俺は天和と互いの出場種目を照らし合わせて何とも重い気持ちになっていた。他にも全員参加の競技もあるが、個人出場の種目だけを見ると俺も天和も、出るのは見事に「賭け種目」の対象だ。 「そんなモン好きにやらせとけ。負けたからってお前に因縁つけるような奴がいたら、逆に俺がシメてやる」 「……天和の権力で、このギャンブルシステムを廃止にできないのか?」 「言えば止めるだろうが、俺にバレねえように隠れて続けるだろうよ」 「俺、小学校の時担任に言われたよ。スポーツを賭けの対象にしたら駄目だってさ。『フリースローで負けた方がジュース奢る』ってだけで怒られてたもん」 「線引きが難しいな。競艇やサッカーのくじはいいのかよって話だし」 「それはプロだから許されてるんじゃない? 分かんないけどさ」  この際、賭けだの何だのの問題は置いておくとしても。 「俺はこの、仮装レースってのだけが本当に嫌なんだよ。絶対晒し者になる訳じゃん。皆でよってたかって笑い者にして、こっちの方が問題だって思うんだけど」  うちの学校の体育祭実行委員が、まともな仮装を用意する訳がない。間違いなく女装も含まれているだろうし、猫耳だのバニーだの、……絶対にやりたくない。 「じゃんけんで負けたから出ることになっちゃったけど、もうマジで嫌だ。天和は騎馬戦か。……どうせ大将だろ、カッコ良くていいなぁ」  全学年が参加する対抗リレーよりも、イケメン軍団の派手な応援合戦よりも、三年の騎馬戦は全種目の中で最大の盛り上がりを魅せる競技となっている。ボルテージが上がり過ぎて酷い野次が飛ぶこともあるが、これがないと体育祭じゃないってぐらいに全生徒が楽しみにしているのだ。  特に大将戦は野次と歓声と一年組の黄色い声でまさに会場全体がカオス状態となる。今年は絶対に天和が大将になると予想されていたから、天和ファンの生徒が興奮し過ぎて失神した時のために救護室にも多くの人員を割くのだとか。 「アイドルのライブかよ!」  ともあれ、これで騎馬戦に関しては俺の赤組は負け確定だ。こっちの大将が誰か分からないけど、誰であっても天和には敵わないだろう。むしろ赤組の奴らも天和を応援するだろうし。 「でも、そんなに期待されるとプレッシャーだろ。赤組の大将は誰なんだ? 知ってる奴?」  ソーダのストローを咥えながら問うと、天和が視線を宙に向けて「あいつだ」と呟いた。 「名前忘れたけど、……あのC組の。去年の生徒会長だった」 「も、もしかして彰良先輩っ?」 「そうだ、渋谷彰良。勉強しかできねえ奴だと思ってたら、意外に空手とか習ってるんだってよ」 「う、うわ……。彰良先輩の大将姿なんて、絶対カッコ良いじゃん……」  撮影して録画して保存しないと。ていうか俺も失神しないようにしないと。いっそのこと手作りうちわとか作ってしまおうか。一年生と一緒になってワーキャー言ってしまいそうな自分が怖い。 「………」 「どうしよう、めちゃくちゃ楽しみになってきた! 差し入れとか持っていったら引かれるかな? はあぁ……楽しみ……。あ、天和も頑張れよ」 「……ぜってぇぶっ潰す」

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