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第7話 体育祭バーニング!・3
六月六日、土曜日。帳が丘学園高等部体育祭、当日。
場所は東京と神奈川の境目にある、普段は公式のスポーツ競技なども行なわれる広くて立派な体育館だ。
ちなみに今日は高等部だけで、中等部の体育祭は先週の土曜に終わっている。何しろ高等部の生徒だけで八百人近くいるのだ。それもあまり素行のよろしくない生徒が多い訳で、中高と行事を分けるのは、まだまだ健全な中等部の少年たちを巻き込む訳にはいかないという学校側の配慮だった。
A、B、C組が赤組。D、E、F組が青組。会場には実行委員が作ったらしい横断幕が既に設置されていて、いよいよだなという気分になってくる。
「凄い! 広い! 人がたくさんいる! 炎樽、頑張ってな!」
赤いハチマキを巻いた俺の頭の上で、マカロが飛び跳ねて宙返りをした。開会式が始まる前までにはサバラの所へ預けに行く予定だが、初めての雰囲気に大興奮のマカロは今にも体育館中を飛び回ってしまいそうな勢いだ。
「気付かれにくいとは思うけど、大人しくしてろよ。昼飯の時間になったらサバラのとこ迎えに行くからさ」
「おう! 炎樽、アレの具合どうだ? 夢魔印の赤ちゃんパンツ、ちゃんとフィットしてるか?」
「で、でかい声で言うなっ!」
今日のためにマカロに借りた夢魔印の下着。ケツの部分にクマの絵がプリントされた、それはそれは可愛らしいパンツだ。これさえ穿いていればどんなに性欲旺盛な山賊や海賊からも襲われないという。相手に「なんだ、ガキか」と思わせる効果があるそうだ。まだ経験の浅いパーティなどが財宝探しに地下ダンジョンへ潜る時は、全員このパンツを穿くのだという。
ちなみにウサギやネコのプリントもあったが、柄なんて心底どうでもいいからクマの絵にした。
「効果は三時間だからな。ちゃんとパンツ取り換えないと駄目だぞ」
「……まあ、あのステッカーよりはましか。そんじゃ、サバラの所行くぞ」
「う、うん」
広い体育館の通路をぐるっと大回りして、アリーナの方へ降りて行く。体育祭実行委員の腕章を付けた生徒達がせわしなく駆け回る中、俺は救護室のドアをノックしてから中へ入った。
「サバラ、マカのこと預かってもらいに――」
「ああ、炎樽くん。おはよう」
室内では生徒用の簡易ベッドに座ったサバラが、一年生らしき生徒の胸や腹を後ろから揉んでいた。
「な、なにやってんだよ、馬鹿っ!」
「何って、マッサージだよ。彼は第一種目のアンカーだそうで、どうしてもと言うから緊張をほぐしてあげてるんだ」
「ふあ、あ……気持ちいいです、砂原先生……」
「だいぶ血行が良くなったかな? またいつでもおいで」
「はい……」
とろとろの表情になった一年生が、ふらつく足取りで救護室を出て行く。俺は溜息をついて、頭の上にいたマカロを手のひらへ移動させた。
「炎樽くん、体育着似合ってるね。でもどう思う? 俺としてはもっと短パンの裾を短くした上で、体にフィットするような造りでもいいと思うんだが……せっかくの太股が全然見えないじゃないか」
「あんたみたいな教師がいるから、こういう造りになってるんじゃないかな」
「炎樽。俺、こいつのことちゃんと見張っておくぞ」
マカロが俺の手から飛び立ち、サバラの肩へ腰を下ろす。その頼もしい顔付きに俺も力強く頷いて、「頼んだ」とマカロに親指を立てた。
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