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第10話 みんなのハッピーなまいにち・4
「それでは選ばれし帳が丘学園『美少女』の皆様、今一度ステージにお願いします!」
緊張した面持ちの「美少女達」が体育館のステージ上にすらりと並ぶ。皆元が誰か分からないくらいに見事な女装と立ち居振る舞いで、ただ笑いと野次が飛び交うお気楽なコンテストになると思っていた分、驚いた。
「あ、ほら。一番左がサバラだ。あそこにパパいるぞ、タルト」
「あー、さたー!」
マカロとタルトがサバラに向けて手を振る。言われるまで気付かなかった俺と天和は互いに顔を見合わせ、ぼそぼそと耳打ちし合った。
「始め、二人ともよくあれがサバラだって分かったよな……」
「……多分だけど、匂いで判別してんだろ」
サバラはアピールタイムでステージに上がった時に、会場にスタンディングオベーションを起こさせたほど完璧な女装をしていた。巨乳で巨尻で金髪に太もも剥き出しのミニスカートで、外国のショーガール──いや、高級クラブのストリッパーのような見事なポールダンスをしてみせたのだ。
「……あれって絶対、サキュバスに体変えてるよなぁ。反則だろ」
「周りもサバラだって気付いてなさそうだしな」
他にもキャバ嬢っぽく着飾った俺のクラスメイトや、メイド服に獣耳の一年生、完全にオネエになったゴツい三年生、府警さん、バドガールにチアガール、チャイナドレスにギャル風JKなど、色々な「美少女達」がステージ上ではしゃいでいる。
「……炎樽。お前だったらどれを選ぶ」
「え? ええと……あ、あの右の人がいいかも」
一番右端にいたのは、茶色いロングヘアをツインテールにしたセーラー服の人だった。まず一人だけ緊張している表情なのが可愛いし、恥ずかしそうに両手を前で組み合わせてもじもじしているのも可愛い。ミニスカートから覗く脚は綺麗で真っ白で、どうしても太股に目が行ってしまう──
「──って、もしかしてあれ、彰良先輩……?」
「てめぇ、また浮気する気か」
「た、天和が聞いたんだろっ!」
司会役の生徒が片手をあげ、マイクに向かって叫ぶ。
「それではこれより皆様の拍手による投票で、ミス帳が丘を選びたいと思います!」
俺の目に狂いはなかった、ということで。
「彰良先輩、流石だよな! 女の恰好してても超人気とか、最強過ぎる!」
「本物の女になってまで出場したサバラの身になれとは思ったけどな」
「サバラも実質優勝だろ。結局、彰良先輩と一騎打ちになったところで『女』だってのがバレた訳だし。反則取られなかったら結果はどうなってたか分からなかったよ」
俺のクラスのエッグタルトも無事に全て捌き終わり、学園祭も終わった午後四時、今は校庭で打ち上げと称したバカ騒ぎの真っ最中だ。三年生の有志によるロックバンドの演奏がここまで聞こえてくる。
そんな中で俺と天和は、二人のちょっとした思い出の場所──体育倉庫の中にいた。相変わらず空気の悪い場所だけど、慣れればそれほど悪くない。
「マカ達、ちゃんと保健室で待ってられるかな?」
「寝てるんじゃねえか。チビも赤ん坊もたらふく食ってたし、歩き回って疲れただろ」
跳び箱に寄りかかって座り、何となく手と手を繋ぎ合う。
「最後の学園祭、どうだった?」
「最初で最後の、だな。毎年参加しねえで帰ってたから」
天和が俺の手を強く握り、呟いた。
「高校最後に、お前を見つけることができて良かった」
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