120 / 122
第10話 みんなのハッピーなまいにち・5
口を開けば暴言か怒声ばかりで、文句が多くてエロくて我儘だと思っていた鬼堂天和が、こんなに優しく俺にキスをしてくれているなんて。
人を殴ったり誰かを押し倒したりすることしかしないと思っていた天和の手が、こんなに心地好く俺の頭を撫でてくれるなんて。
「……綺麗な空だな、天和」
倉庫の小さな天窓から見える空は、薄らとオレンジがかっている。それを見つめる天和の横顔が愛しくて、俺は自分からその頬に口付けた。
「炎樽」
「うん?」
「あの日、ウサギを見つけてくれてありがとうな」
「………」
瞬間、視界いっぱいにあの日のオレンジ色が広がった。
ウサギを探して泣いていた男の子を放っておけなくて、俺が見つけてあげたくて、必死に探して、……ようやく見つけられた時のあの気持ち。
「大好きだ」
俺達が初めて出会ったあの日も、頭上には綺麗なオレンジ色が広がっていた。
あの日二人で見ていたのと同じ夕焼け空が、いま俺達を優しく見守ってくれている。
──大好き。
「……俺も大好きだ」
「………」
抱き合えば温かく、唇を重ねれば愛しい気持ちでいっぱいになる。触れられれば切なくなって、触れるともっと切なくなる。
「ん、……あっ、……」
分け合って、与え合う。多分セックスってその繰り返しだ。
「炎樽、がっつくな」
「ご、ごめん……だって、……」
「がっつくのは俺の役目って決まってんだ」
天和のそこを握っていた俺の手が引き剥がされ、敷いていたマットの上に固定された。身動きの取れない状態で体を貪られるのは心地好い。天和を信頼しているからこそ、彼に全てを委ねることができるのは嬉しい。
俺の全ては天和の物。──そんな気持ちになれるということの素晴らしさに、泣けてくる。
ともだちにシェアしよう!