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月曜日2

体育が終わり、その日は圭吾に避けられていた。圭吾もあんな事を言って気まずいと感じているのかもしれない。昼休みになると圭吾は早々に教室から出て行った。別の場所で昼食を取るんだと思う。俺も気を使ってその日は圭吾には声をかけなかった。 「今日は一人か…。」 いや、もしかしたら圭吾が断っていたらもっと早い段階でこうなっていたかもしれない。弁当を広げようとした時、聞き覚えがある声が聞こえてきた。隣のクラスの江藤だ。今日はやたら俺にかまってくるのが少し気がかりだった。 「今日一人なら、一緒に飯食わねぇ?」 「嫌だ。」 「冷たいなぁ…俊哉には拒否権なんてないけど!」 あの時の写真でまた脅すつもりなのか、冗談なのかも分からないような口調で言った。江藤はもともと強引なところがある、それに圭吾もいないため断る理由もない。 了承すると江藤は嬉しそうに目を輝かせた。江藤の表情は子どものようにころころ変わる。 俺は弁当を片手に立ち上がると江藤は俺の手を握って、引っ張るように歩き始めた。 「離せよ、一人でも歩ける!」 廊下を男二人で歩くなんて恥ずかしすぎる。俺は顔を赤く染めながら言ったが江藤は離してくれそうもない。教室から出ようとした時だった。鉢合わせるように圭吾が入ってきた。 なんて、タイミングが悪いのだろうと思った。圭吾は俺と江藤の手を見て、眉間に皺を寄せる。 「あ、宮田。」 「俊哉をどこに連れて行く?」 「いやー宮田には関係ないっしょ。」 江藤は俺を抱き寄せ、圭吾に見せびらからすように言う。そして、圭吾の横を通り抜ける。 江藤の手を振り払って、圭吾のもとに行きたいが、江藤の手を振り払ったらきっと悲しい顔をするような気がして出来ない。 「ごめん…。また後で。」 俺は圭吾の顔を見ないように下に視線を向けながら呟いた。自分の八方美人なところが嫌に思えた。結局、俺は誰も傷つけなくて、優柔不断になってしまっている。 それではダメだとは思っているのだが、行動には表せない。 そのまま江藤に連れてこられたのは屋上だった。普段は立ち入り禁止で鍵がかかっているはずなのに何故か開いていた。周りには人は居らず、天気も良いため気持ち良い。 「俊哉の弁当うまそー。俊哉の母ちゃんが作ってんの?」 「いや、俺が作ってる…それにコレ冷食ばっかだし。」 普通に会話して普通に弁当を食べている。何だか拍子抜けした感じだ。まあ、平和が一番だからいいのだけれど。 「あ、俊哉ご飯粒ついてる」 「やめろよ…っ!」 そう言って突然江藤は顔を近づけてきた。俺は信じられない思いで、江藤から離れようとすると江藤は俺の手を掴み引っ張り寄せた。俺の体は突然の事に対応出来ずにすっぽりと江藤の腕に包み込まれてしまう。屋上に二人しかいない事が唯一の救いだった。 江藤に不満げな視線を送ると江藤は真面目な表情でこちらを見ている。 そのまま顎を掴まれ唇を奪われた。俺は舌を入れられまいと唇を硬く閉じていたが、唇を舐められて、驚きのあまり唇を開いてしまった。 「ん、やっ…ふぁ」 江藤の舌は俺の舌を絡めとったり、あま噛みをしたりして俺の口内を翻弄した。途中、酸欠になり、俺が江藤の体を叩くと唇を離された。 「はぁ…何する…わっ!」 俺が文句を言い切る前に江藤は俺を抱きしめた。江藤の鼓動がダイレクトに聞こえてくる。その鼓動につられて自分もドキドキしていた。 「宮田なんかやめて、俺にしろよ…、あいつは、絶対俊哉に酷い事をするんだ。」 江藤が俺の耳元で呟いた。江藤は知っているのだ。圭吾の事情を。けれど俺の答えはもう決まっていた。圭吾は今まで、ああいう風にして諦めさせてきたのだと思う。 「知ってるよ、でも俺は圭吾しかいないんだ。」 江藤には悪いが俺が好きなのは圭吾だ。それだけは譲れない。枯れ果てたと思っていた涙が溢れ出てきた。我慢しようと思っても次々に涙が溢れてくる。 「泣くな、俊哉。」 そう言ってる江藤も泣いていた。江藤は俺の瞳から流れ出る涙を舌で舐めとり俺を強く抱き締めた。江藤の思いが痛いほど分かって、胸が痛かった。

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