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約束
「最悪だ。」
俺は江藤と泣いていたら互いに酷い顔になってしまい、不本意だが、5・6限をサボってしまった。これは流石に怒られてしまうだろう、と先の事を考えると気が重くなった。
「あ、そうそう…俺、あの写真消した。」
江藤が自らの携帯を投げてよこした。すでにデータホルダが開かれており、確認しろと言いたいらしい。江藤の言う通り、携帯の中には俺の写真は一枚もなかった。他の末端にある可能性もあるのだが、江藤が嘘をつくとは思えない。
「なんで…?」
「別に許してくれって言いたいわけじゃない。ただ、俊哉の事諦めてねーから。写真とかじゃなくて…なんつーか…俊哉と対等な関係になりたいんだよ。」
江藤は俺から目をそらすようにそっぽを向く。そんな江藤の耳は真っ赤に染まっていて、俺は思わず笑みを洩らした。
「本当に宮田はやめた方がいい…俺は今まで見てきたから知ってる。あいつの愛情表現は俊哉に耐えられない。」
「それでも、いいんだ。」
江藤は圭吾の何を見てきたんだろうか。俺はそれを江藤に聞くことはなかった。聞いてもきっと圭吾の事が好きなままでいられたと思う。けど、圭吾は知られたくないだろうし、江藤もあまり話すのは気が進まないような雰囲気であった。
・・・・・・・・
あれから、4日経ったが圭吾とは口をきいていない。圭吾を避けているわけではなく、俺が圭吾に避けられているのだ。話しかけようとしても、圭吾は早々に立ち去ってしまうし、違う誰かと話していることが多い。江藤との時の事で怒っているのだろうか。弁解しようにも会話が出来ないためそれもままならない。今、昼食は江藤と食べている。さらに誤解されてしまうため、断っていたが江藤が強引に座ってしまうため諦めている。最初、クラスでは俺と江藤が何故、仲が良いのかと疑問視する声が聞こえてきた。俺と江藤は真逆のタイプだから、仕方ないのかもしれない。
「今日は席替えをするぞー。」
LHRの時に担任の先生が言った。教室から歓喜の悲鳴や残念がる声が聞こえてきた。俺は圭吾を見る。ここからだと背中しか見えないため表情は分からないが圭吾は前者なんだろうか、と考えてしまった。俺と席が離れて、良かったと考えているのではとマイナス思考に陥った。圭吾にどうやって話を聞いてもらえば良いのか分からなかった。俺が話しかけると圭吾は決まって嫌な顔をして、話しかけることすら今は億劫である。
くじ引きの結果俺は窓側の四番目。圭吾は廊下側の二番目。全然違う場所――。
圭吾をちらりと盗み見ると、久々に見た笑顔だった。俺は耐えられずに目線を窓に向けると外は雨が降っていた。
「傘忘れた…。」
俺は晴れると言っていた天気予報を恨んだ。俺は図書委員会で今日は図書当番の日。
帰るまでに晴れてればいいと考えていたが雨がやむことはなかった。むしろ強くなる一方で、もっと早く帰れたら…と後悔した。図書当番も終わり、俺は教室に荷物を取りに行く事にした。
「…っ!?」
教室に戻ると圭吾が一人、座っていた。圭吾も傘忘れたのかもしれないと思ったが圭吾が座っているのは俺の席で、明らかに不自然だった。教室の入り口で固まっていると、圭吾と目が合った。
「来いよ、俊哉。」
圭吾の言葉は重くのしかかり、俺を動けなくした。俺が固まっていると、圭吾がゆっくりと近づき、抱きしめられる。こんな風に満たされたように感じるのは圭吾だけで、やっぱり好きなんだと思い知らされる。圭吾に問いかけても反応しないため、体を離そうとするとより強く抱きしめられた。まるで、逃がさないとでも言うかのように。
「…俊哉に告白されて。俺、あんな酷い事して許されない事はわかってる…けど、俊哉が江藤に奪われるって思ったらモヤモヤして耐えられない…。」
顔は見えないが声が震えて、泣いてるかのように聞こえる。実際、泣いてるのかもしれない。そして、俺は自身を恥じた。優柔不断な態度で江藤の事を拒めない自分に、自分から告白したのに圭吾を不安にさせてしまった自分に。けれど、圭吾が嫉妬してくれと思うと嬉しく感じたのも本音だ。
「好きだ…俊哉。」
「俺も、圭吾しかいない。不安にさせてごめん…。」
この言葉は反則だ。
俺はただ黙って、エスカレートする圭吾の行為に従うしかなかった。最初は触れるだけのキスも深いものになる。気持ち良くて、圭吾の体に腕を絡ませた。
「明日は俊哉の誕生日だろ。一緒に過ごさないか?」
明日は俺の誕生日だったが、あえて言うこともなかったので何も言っていなかった。覚えてくれていた事だけで俺は嬉しくなり胸がいっぱいになった。しかも、一緒に過ごしてくれるというのだから、夢なのではないかと考えてしまうほどだった。
「うん、ありがとう…!」
俺は目を閉じて、圭吾の温もりを肌で感じた。まだ降り止まない雨の音は今となっては心地良いものとなっていた。圭吾の言葉はまるで蜘蛛の糸だ。捕えた獲物に絡みついて離れない。そしてそのまま、逃げ出すことは叶わない。それで良いと思った。
土曜日、圭吾の家で誕生日を祝う事になった。このまま幸せが続けば良いと思ってしまった。
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