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第3話

−−−−−−−−−−−−−−− 「あき、次の授業移動だぞ」 あきと呼ばれたこの青年の名前は劉玄(りゅうげん)(あき)。高校二年生である。 彼は次の授業で使う教材を机から取り出し、教室のドア付近で彼を待っている同級生のもとへと向かう。 「しかしあきが授業中に居眠りなんて珍しいな」 「教室があったかいから眠くなっちゃって」 「そうだなぁ、もう6月だもんな」 そう言って横を歩く同級生は窓から差し込む陽の光に目を細める。 「そろそろ中間試験の勉強を始めないとね」 昭の言葉を聞いて彼はうへえと嫌な顔をした。 その姿に笑いながら廊下の角を曲がろうとした時。 「うおっ!?」 「わっ!」 曲がり角の向こうから歩いてきた集団の一人とぶつかったらしい。その衝撃で昭は思わず持っていた教材を落としてしまった。バサバサと落ちる教科書やノート。どうやらぶつかってきた相手も持っていたものを落としたようだ。 「やべっ!すみません!!」 相手は謝りながら急いで落としたものを拾い集める。屈んだ時にふわふわとした金髪の隙間からピアスが見えた。上履きの色から察するに彼は一年生であろうか。 「こちらこそすみません!」 そう言いながら昭も一緒になって拾うのを手伝おうと屈んだ。 「おい飛鳥何やってんだよ。」 「すみませんうちの馬鹿がちゃんと前見て歩かないせいで。」 彼の同級生だろうか、一緒に歩いていた生徒たちが口々に言う。 「おいお前らうるせえぞ!」 飛鳥と呼ばれた青年は同級生のヤジに文句を言いながらも昭の教材を拾い集め渡してくれた。 「あ、ありがとう」 「いえ、あの、ほんと、すみませんでした!」 そう言って青年は軽く頭を下げると、まだ笑っている自分の友人たちのもとへ戻っていった。ぎゃーぎゃー騒ぎながら集団は離れていく。 「あき、大丈夫か」 「あ、うん」 様子を見ていた同級生に声をかけられ、昭は腰をあげた。 「今年の一年は元気だな」 「一つしか変わらないのに何おじさんみたいなこと言ってるの」 軽口を叩きながら廊下を曲がり階段をのぼる。 教室に着き扉を開けようとした時。 「……あれっ?」 「ん?」 手元にある教科書を見る。「生物Ⅰ」と書かれた教科書は二年生の授業で使うものではない。 先ほどぶつかったときに一年生の彼のものと混ざってしまったのだろうか。 (しまった……) ほとんど使い込まれていないその教科書には名前も書かれていない。後で一年生の教室に行って彼を探さないとなあ…と嘆息を漏らしながら昭は友人に続いて教室へ入っていく。 背後で授業の開始を伝えるチャイムの音が鳴った。

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